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先祖返りの町作り(再調整版)

第31話 同僚

 デンドウのこぎりの開発から2年半。私は37歳になっていた。最近少し老けて来たような親方からは、

「お前は、まだ若くていいな」

 と言われる。

 いつかはばれるだろうが、私は年を取らない事を説明すべきだろうか。少し悩む。

 例の秘伝の塗料を使った魔道具の研究が実を結んだ結果、親方の作る魔道具は他の追随を許さないほどの小型軽量タイプで、わずか3年ほどの間に、親方は国一番の魔道具師として有名になっていた。

 時が経過するごとにルツ工房の商品は人気を博し、親方と二人で生産していたのではとても手が足りなくなっていったので、工房を引っ越し、弟弟子と従業員の同僚ができた。

 私は里では、対等な友人はいなかった。私と対等に接してくれるのは、母と慕う祭司長だけである。

 最初の方こそさみしかったが、今ではそれに不満はない。

 それでも、同僚がたくさんできて対等な友人ができたのは、とてもうれしい事だった。

 ちなみに、祭司長を未来のお嫁さんに勝手に指名したのは、若気のいたりとして処理していて、初恋とはカウントしていない。

 また、私は見習いを卒業した事で親方から給料をもらっていたが、それとは別に、例の粉をかなり高額に買い取ってもらっている。

「私は弟子なので必要ありません」

 私は固辞しようとしたが、

「金銭の問題は、身内こそ、きっちりと決めておくべきだ」

 という、親方の主張により、今では普通に取引している。

 たくさんの同僚ができた私は、親方の一番の高弟という世間一般の評価で、この工房の商品の中でも、親方のルツモデルがプレミアムタイプで、私のヒデオモデルがそれに次ぐ扱いになっていた。

 年月の流れと共に私の給料も上がり、金色の粉の代金と合わさって、大金持ちは言い過ぎだと思うが、私は小金持ちにはなっていた。

 私の仕事の合間の趣味は、相変わらず魔法の研究である。それには、新しい魔法の収集も含まれる。

 暇な時に魔術師を訪ね、販売している魔法式の種類を聞き、未知なものであれば金に糸目を付けずに収集している。

 私が無詠唱魔法の使い手なのは特に隠していなかったため、都市では有名らしい。

 私の名前が広がるにつれて、里を出発する時の祭司長の言葉を思い出す。


 『可能な限り力を隠せ』

 『できるだけ無害な存在である事を示せ』


 この事から、私が彼らの言う所の「上位アルク」である事を隠す必要性を感じた。

 また、この都市にも少数ながら町アルク族は暮らしていたため、彼らに聞き取り調査を行った結果、先祖返りについては伝わっていない事が判明した。

 そのため私は自らの種族を、「森アルクの先祖返り」と名乗っている。正直に言っているようだが、一つの事を秘密にしている。

 それは、先祖返り=上位アルクの事だ。

 この二つが一致する事を知っているのは、里の皆と、出入りする行商人、後は親方だけだ。

 里帰りした時に、お土産の一つにしたヒデオモデルの火種の魔道具は、祭司長が愛用してくれている。

 ただ、里の皆は外の世界の魔法について楽しそうに話は聞くが、自分達も学んでみようとは思わなかった。

 里は保守的なのでそうだろうなと思っていたので、特に落胆はしていない。

 私の顔は、色白で銀髪、しかも女顔のため、里ではフツメンだが都市ではイケメンになるらしい。

 まだ若く見えるのに結構な高給取りのため、優良物件と考えられているようだ。

 しかし私は、ヒム族と比べて寿命の長い森アルク族の中でも、突出した寿命の長さの先祖返りである。

 ヒム族から見たら、無限の寿命に見えるだろう。

 同じ先祖返りでもなければ、恋愛対象にしてもお互い不幸になるだけなので、特定の恋人は作っていない。

 ご近所のなじみの八百屋さんの娘さんはとても積極的で、私を食事やデートに誘う機会を虎視眈々と狙っている。

 それさえなければ美人でいつもおまけをしてくれるので、追及をノラリクラリとかわしながら生活している。

 私の開発したデンドウのこぎりは、爆発的大ヒットとまではいかなくても、結構売れている人気商品だ。

 噂では、遠い町から商人が仕入れに来るらしい。

 何も考えずにデンドウのこぎりと命名したが、もちろん電動ではない。

 実地調査をした結果、初期モデルの大きさでは使いにくそうな人もいたため、大きさを変えて複数のモデルを用意したのも、人気の理由だそうだ。

 親方の名声が上がるほどに、最大の謎とされる塗料の製法を求めて、同業他社からのさぐりが頻繁にある。

 これはまだ良い方で、いやがらせをされる事もある。

 私は高い給料をもらうようになったので、親方の工房を出て借家を借りているが、今の工房に近いため、いやがらせの声がエスカレートした時はすぐに駆け付け、逆上して暴力をふるいそうになったら、思いっきり手加減した魔法を駆使してご退場願っている。

 私が無詠唱魔法の使える森アルク族という話が広がったのは、もしかしたら、この辺りの事が影響したのかもしれない。

 最近は、お貴族様の関係者との噂のある人からも接触があり、対処法等を親方と相談する事もある。

 工房の弟弟子達が頑張ってくれているので、私に割り振られる仕事が楽になった。