先祖返りの町作り(再調整版)
第30話 デンドウのこぎり
親方が嬉々として研究を始めたので、没ばかりな新商品開発から脱却し、儲かるものを作りたい。
今までの没アイデアを振り返り、考える。
電卓を作ろうとして失敗したのは、原価を考えなかったからだ。高額になるのは、機能が複雑過ぎたからだ。ならば、もっと単純で便利なものを考えれば良い。
ただ、この世界には水魔法や風魔法があるので、それらでは代用できないものでないと意味がない。
「単純かつ、便利なもの。しかも魔法と被らない……」
独り言をしゃべりながら、私に与えられた部屋をうろうろする。
「そう言えば、『モーター』があるのに、これを使った便利アイテムを考えていませんね。『モーター』、回転、単純……」
しばらく考える。
構造はできるだけ単純じゃないと高額になる。回るもので何か道具がないか。車やスクリューは論外。
その時、ひらめいた。
「あるじゃないですか。回転する便利なものが」
過去の反省を生かし、設計する前に親方に相談する。
「親方。新しいアイデアが浮かんだので、相談に乗ってください」
「ああいいぞ。お前は、アイデアだけなら天才だからな……。これからも、設計する前に相談に来い」
私の説明はこうだ。
「まず、回転の魔道具を研究、改良して、もう少しパワーが出るようにします。そしてそれの先に、円形状に加工したのこぎりをつけます」
そう。電動のこぎりである。
親方から開発の許可が出たので、まずはモーターの改良から始める。パワーを高めるだけなので、これについてはすぐにできた。
まずはモーターの部分だけ試作し、いろいろと実験して問題点を洗い出す。
平行して丸ノコの開発も進める。こちらも金属加工の技術があるため、円盤を鍛冶屋に発注して削り出す。
いろいろあって試作一号機ができたのは、それから半年ぐらいたった時だった。
「親方。デンドウのこぎりの試作一号機が完成しました。見てください」
「ん。どれどれ」
板を切って実演する。
デンドウのこぎりの目指した所は、手で保持して材木が加工できるものだったが、作ってみると重過ぎて、持って扱うには難しいものだった。
そのため、机に固定して扱うタイプに途中で設計が変更されている。
「良さそうだな。しかし、これは細工物とかには向かんな。おおざっぱにしか切れん」
「営業に関しては、私にアイデアがあります」
売り込みのアイデアを説明する。
「この魔道具の主な客層は、材木屋とか大工等の、比較的大きな木材を扱う人達ですよね?」
客層が狭いので、宣伝する必要がある。この世界での主な宣伝は口コミだ。
「この試作一号機を、材木屋に無料で貸し出します。そして便利さを実感してもらい、口コミで評判を流してもらいましょう」
このアイデアは即採用された。