先祖返りの町作り(再調整版)
第29話 配線の研究
私は反省し、また考える。
それからしばらくたって、ある事実に気付いた。
(魔道具の原価は、銀線の価格がかなりの割合を占めます。ここを何とかすれば、かなり安くなるはずです)
そこまで考えて、ハッとなった。
(銀線が使われるのは、魔力伝導率が良いからです。魔力伝導率と言えば、あの例の塗料が画期的な効率のはずです。あの金色の粉を使った、配線ができないでしょうか?
これは、親方に相談しましょう)
「親方。ちょっといいですか?」
「何だ? また変なもの設計して来たのか?」
「いえ。アイデアだけは素晴らしいと言われたので、まずはアイデアを見てもらいましょうかと」
そして、アイデアを軽く説明する。
「わしの専門は塗料の研究なんだがな……。そこはいい。しかしな、その研究は没だ」
「なぜです?」
「あの金色の粉を混ぜ込んだ合金の板さえあれば、わしの技術であれば線の形に加工はできるだろう。それを使えば実験はできる。
しかしな。誰がその合金の板を作るんだ?」
「鍛冶屋さんでしょうか」
「そうだ。そしてその時、混ぜ込んで欲しいものを渡さないといけない」
「あ!」
私も気付いた。
合金を作ってもらうためには、あの粉を渡さないといけない。あれはルツ工房の秘伝中の秘伝だ。不用意に渡せない。
渡せたとしても、出所や原料を説明できない。原料がばれたら命に係わる。無理はできない。
「ならば……。いっそ、染めますか」
「染める?」
「ええ。糸にあの塗料をしみこませて染めます。これなら簡単に自作できるので、実験できますよね?」
「なるほどな。わしは塗料の研究がメインではあるが、あの粉でそっちは片が付いた。次は配線を研究してみよう。これが実現したら、魔道具の価格破壊が起こる。
歴史に名が残るぞ!!」
それから、嬉々として研究を続けた親方だったが、結果から言えば、この案は失敗だった。
糸でも、染めればごく微量なら魔力が流れるが、効率が悪過ぎて使い物にならない。魔法式のプレートが金属なのも、それが関係しているのだろうという結論だった。
プレートの材料は、誰も疑問なく鉄を使っているが、あれもおそらくは、布や紙ではだめなのだろう。
考えてみれば当たり前の事で、古代魔法文明でもプレートは金属製だ。
あれほどの文明であれば、プラスチックのようなもっと加工しやすい材料もあったろうに、わざわざ金属のプレートを使うのにも意味があるのだろう。
これらの事が判明するのは、ずっと後の事である。