Novels

先祖返りの町作り(再調整版)

第33話 親方の後継者

 がすこんろの発売から数年がたった。

 私は42歳になっていた。里を初めて出たのが30の時。12年の年月は、あっという間だった。

 12年前から比べると親方もだいぶ老けたが、まだまだ元気で、魔道具作りに邁進している。

 急成長した我らがルツ工房であるが、もう大企業と言って良いほどの規模なのに、親方は経営よりは自作や研究を優先する、根っからの技術者だった。

 全く老けない私は周囲から少し不審がられる事もあったが、里のものでも、このくらいの年であればまだ若い方である。

 そのため周囲には、

「森アルク族は寿命が長いですからね」

 と説明している。

 この頃になると、工房の弟子達の中には独立したものもいたが、親方秘伝の塗料がないため他の工房と同程度のものしか作れず、かなり苦戦していた。

 そのため弟子達の多くは、一人前になっても我が工房の従業員として働いている。

 親方はそろそろ後継者を育てたいらしく、

「ヒデオ。お前がわしの後を継いでくれ」

 何度も頼まれたが、私が親方になってしまうと半永久的に地位を独占してしまう。

 私がいわゆる「上位アルク」である事を知っている親方には、隠し事しても無駄だと思い、私がほぼ無限の寿命を持つ事を説明し、

「いつまでたっても変化しないのは停滞を呼びます。技術で飯を食う、ルツ工房の理念に反しますよね?」

 と説得した。

 そのかいあって、親方は高弟の一人を後継者に指名した。

 彼は優秀な技術者ではあったが、経営に関しては興味がなかったので、今はいろいろと教育中である。

 がすブランドの商品は私の予想を超えて売れており、同業者の恨みをこれ以上買わないために、新商品の開発は控えていた。