Novels

先祖返りの町作り(再調整版)

第24話 そして魔道具職人へ

 弟子入りしてから4年ほどたった今。親方は、私の作った金属細工をじっと検分している。

「ふむ……。そろそろ頃合いか。今日から魔道具作りを教える。一人前の魔道具職人になれるように、頑張れよ」

 待ちに待った瞬間である。思わず大声をあげて飛び上がった私を、親方は、その強面に微笑みを浮かべて眺めている。

 ちなみに親方の一人称は祭司長と同じなので、とても親しみを覚える。

 私の実の両親は教えてもらっていないが、いろいろと教えてもらった祭司長を私の母とするならば、親方が私の父にあたると尊敬している。

 魔道具職人としての最初の教育は、今までの基本のおさらいだ。

 魔道具は、魔石、魔法式を刻んだプレート、配線が基本構造だ。

 そして、今の魔道具の基礎となっている、古代魔法文明の遺跡からの出土品には、3つの謎があるとされている。

 1つ目は魔法式の金属板。

 ここに刻まれた魔法式は、人の手ではおよそ加工のできない微細加工だ。そのため、何らかの魔道具を使って加工していると考えられているが、どのようなものを開発すれば良いのか誰にも分からない。

 2つ目は配線に使う金属。

 現代では、魔法銀と呼ばれる金属からできた、電線のようなものを配線に使っている。

 魔法銀と聞いて、ピンと来た人は多いだろう。ファンタジーと言えばあれ。ミスリルである。私もそのように認識している。

 この魔法銀はとても魔力伝導率が良く、これ以外での配線では、まともな魔道具にならないそうだ。ただ、ごく少量しか産出されないため、配線に使う程度でも恐ろしく高額である。

(ミスリルと言えば剣ですよね? 魔法剣)

 そう思い、親方に言ってみた。

「親方。魔法銀で作った、魔法が使える剣はないのですか?」

 ものすごい馬鹿をみるような目で説明された。

「確かに、魔法銀で剣を作れば、魔法が発動できる剣も作れるかもしれんがな。恐ろしいほどの値段になるので、代金で国が傾くぞ」

 続けて説明してくれる。

「魔道具として使える剣が欲しければ、普通に鋼鉄で刃を作って魔法式を刻み、銀線で配線すれば良いだけだ。わざわざ魔法銀で作ろうとする意味が分からん」

 古代魔法文明のものに使われている配線は、魔法銀ではない事が判明しており、何らかの合金が使われていると考えられているが、製法が不明なようだ。

 3つ目はインク。

 インクと言うか、特殊な塗料である。

 魔法式をプレートに刻み付けただけでは魔法は発動せず、刻んだ溝に特殊な塗料を流し込む事によって、魔力が流れて魔法が発動する。

 わざわざ刻むのは、一定の塗料の量が必要なためで、理論上は巨大な紙に巨大な魔法文字を書けば魔道具ができるが、効率が悪過ぎて誰もやらない。

 さらっと書いたが、この国にも紙がある。ただし、羊皮紙しかない模様。

 手すき和紙の製造工程は、大まかなものであれば記憶にあるが、再現するためには、少なくとも年単位の試行錯誤が必要だろう。

 和紙を作るための各種道具の再現も、なかなかハードルが高い。そう簡単に大儲けできるものは、残念ながら存在しないようだ。

 話がそれた。塗料にもどそう。

 塗料の魔力伝導率が良いほど小型化できる。古代魔法文明のプレートのような極小の魔法文字では、仮に加工できたとしても、塗料の関係で魔道具としては成立しない。

 魔力伝導率は、どうやって計測しているのだろうか? この世界には、電圧計のような便利グッズは存在しない。

 わざと効率の悪い計測専用の魔法式のプレートを用意し、質の悪いクズ魔石を使って、連続稼働時間で計測する。連続稼働時間が長いほど、伝導率の良い塗料という訳だ。

 この塗料は、基本的には細かく砕いた魔石とインクを混ぜたものだが、その配合率は各工房の秘伝だそうだ。

 親方の研究はこの塗料の改良で、今行き詰っているそうだ。

 質の良い大型の魔石を使えば伝導率が上がる事は広く知られているが、含有魔力量やコストから考えると、ひどくコストパフォーマンスが悪い。

 親方の研究成果としては、里の魔石を使えば小型化できるというものだった。

 最初に見た火種の魔道具が比較的小型だったのは、このおかげだったらしい。

 ただ、魔力含有量や価格を考えると、かなり効率が悪い。

 私が渡した魔石を使った研究でもそれは言えるようで、もしあれを使って魔道具を開発すれば従来品よりも小型化できるが、原料がばれたら命がないからできないそうだ。