先祖返りの町作り(再調整版)
第19話 冒険者
今、私は街道を歩きながら、ガルムの都市の街壁を見ている。
あの壁を越えたらリスティン王国で、冒険のプロローグが終わり、ようやく序章が始まる。
ここまでの旅路で、私は周囲を質問攻めにした。私のあまりにもな世間知らずっぷりに周囲はあきれかえっていたが、
「だからこそ、常識のギャップを埋めたいのです」
という、私の説明に納得し、文句も言わずに答えてくれた。
(傭兵って、もっと怖いイメージがありましたけど、皆さんいい人でほっこりします)
私は王国に着いたらいわゆる冒険者になろうと思っていたが、ここでもかなりの常識のズレを見せた。
この世界での冒険者と言えば、古代魔法文明の遺跡を探したり、発掘作業をしたりする人の事のようだ。
これは、ただの考古学の学術的興味だけではなく、実益もあるようだ。
遺跡では、古代魔法文明の魔道具がまれに発見される。これは、この時代では再現できないロストテクノロジーで、再現できたとしても、かなり巨大なものになるそうだ。
鉄板等に魔法式を刻み込み、魔力を通しやすい金属で配線し、魔石の魔力を使って作動するという基本構造自体は同じもの。
問題なのは、魔法式の刻まれたプレートが、人力ではとても削り出せない細か過ぎるほどの微細加工で、これが現代で作ったら巨大化する主な原因だそうだ。
それでも、目を皿のようにして刻まれた魔法式を書き出せば、現代では失われた魔法式が数多く見つかるため、古代魔法文明の魔道具は、ガラクタでも恐ろしく高値で王家が買い取るそうだ。
一攫千金を夢見る人の仕事のようだ。
このプレートの魔法文字は、時代が後になるほどどんどん小さくなって行き、後期古代魔法文明の時代のものになると、どんなに目を凝らしても見えないそうだ。
それでも、後期古代魔法文明のものの方が明らかに複雑なので、いつか解析できたら大きく発展できると期待して、王家がやはり、高値で引き取ってくれるそうだ。
これらの事を興奮した様子で説明してくれたのは、護衛の傭兵の中で一番ガタイのいいドルトさん。
発掘資金を稼ぐため、今は傭兵稼業で貯蓄しているとか。
ガタイが良過ぎて考古学者にはとても見えないが、学者はだいたい変人ぞろいなので気にしない。
私の考えている冒険者に一番近いのは、傭兵らしい。
この時代の傭兵は、人間同士で戦争はしない。自由国境地帯が間にあるため、戦争がそもそも起こらない。軍隊が隊列を組んで魔物の領域を突破するのは、ほぼ不可能だ。
傭兵は領主や国王に雇われて、定期的に騎士団と協力して魔物の間引きを行う。
貴族の軍隊である騎士団は数が少ないため、騎士は傭兵集団の指揮官になる。
傭兵は強いほど出世がしやすいため、仕事のない時は、魔物の領域のできるだけ深い所に潜り、腕を磨くついでに魔石や希少な素材を売って日銭を稼ぐ。
強い魔物ほど大きな魔石が取れるため、高く売れる。
魔石は基本的にバッテリー扱いだが、里のものみたいに、魔力をわざわざ込める事はあまりしなくて、最初から魔石に含まれる魔力を用いる。
大きい魔石は含まれる魔力が多く、設置スペースをあまり考えない、大型の貴族の魔道具用に人気がある。
里から輸出される魔石が高値で取引されるのは、小さい魔石であるにもかかわらず含有魔力量が非常に多く、省スペースの小型の魔道具になるからのようだ。
話に聞いた限りでは、いわゆる冒険者ギルドのような便利な互助組織は存在しない。
ただ、傭兵団同士には横の繋がりがあるため、商人の護衛依頼等は、お互いに情報を交換しあって依頼を融通しあう慣例のようだ。