先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第250話 ユキムラの横顔
私の名前はユキムラ。ユキムラ・ウル・ガインです。
大おじい様が作られたこの国、ヒデオ・キョウワ国の初代ダイトウリョウという、過分に名誉な職に就かせてもらっています。
その大おじい様は、近頃、「建国の父」と呼ばれるようになりました。
その他にも二つ名の多い大おじい様ですが、最近は、「歩く伝説」ですとか、「合いに行ける英雄」などとも称されています。
私たち、大おじい様の子孫たちには、ずっと言い伝えられている役目があります。
それは、大おじい様がこの地に楽園を築こうとしているので、それを見届けるようにというものです。
実際、大おじい様がこの地の領主に就任してから、ものすごい勢いで発展を続けるようになりました。
その結果として、それまで虐げられてきた平民たちが次第に力を付けるようになり、やがて平民による反乱が勃発、それまでのリスティン王国は倒れました。
大おじい様は、当初、平民たち自身の手で革命をなして欲しいと思っていたようです。
しかし、武力に勝る王侯貴族たちの反撃にあい、次第に反乱は鎮圧の気配を色濃くしていきました。
そのような情勢の中、大おじい様は自ら立ち上がり、反乱の総指揮を執ることを決断されました。
そこからはまさに、怒涛の展開となりました。
僅か半年ほどで反乱軍を一本化すると、それから、あれよあれよという間にあれほど強大だった王国軍を簡単に打ち破り続け、軍を起こしてから半年ほどの時間で王国を打倒してしまいました。
その後、大おじい様はこの国に大改革を断行し、シミンだけの国、キョウワ国を立ち上げました。
周囲のものは、当然、そんな大おじい様にずっと指導者としてこの国を導いて欲しいと懇願しました。
ですが、大おじい様は決して首を縦に振りませんでした。
それをすると自分が新しい王様になってしまうので、それではキョウワ国を作った意味がなくなると、周囲を逆に説得し続けたのです。
それならば、せめてと、周囲が直系の子孫である私を担ぎ上げるようになったのは、至極、当然の流れだったと思います。
それを知った大おじい様は、とても申し訳なさそうな顔をしながら、私に謝罪していました。
ですが、それは全く問題ないのです。
あれは、私が妻のリノアと結婚した年でしたから、今から二十五年ほど前になります。
その時、大おじい様は、私にこう言ったのです。
「あなたの代では無理でしょうが、せめて、あなたの子供か孫が好きな職業に就けるように、私に力を貸してはくれませんか?」
その宣言通りに、息子のヨシヒロには職業選択の自由を与えてくださったのですから、大おじい様を恨むなど、とんでもないことなのです。
そんな大おじい様は、現在、様々な引継ぎを行っています。
臨時ダイトウリョウの職務はもちろん、ヒデオ工房の工房長や、ダイガクの名誉学長など、肩書の多い大おじい様ですが、それらの一つ一つを丁寧に引き継いでいます。
大おじい様は、この国に新たな文明を授けてくださいました。
ですが、大おじい様本人は、その文明の及ばない島アルクの里で、婚約者さんと幸せに過ごしたいのだそうです。
それを聞きつけた私の妹のニーナは、とても動揺していました。
それはそうでしょう。
この国に住むシミンであれば、大おじい様がこの地にあり、ずっと見守ってくださるということが、どれほどの安心感になるのか、身に染みて理解していますから。
まして、先祖代々にわたって見守り続けてくださった、我々、子孫たちであれば、その感情もとてつもなく大きなものになっています。
ニーナは、最後は大おじい様に縋り付いて、泣きながら、いかないでと懇願していました。
大おじい様は少し困った顔をしながら、まるで小さな孫をあやすように、ずっとニーナの頭をなで続け、背中を優しく叩いて落ち着かせようとしていました。
私もニーナの気持ちはよく分かります。ですが、私たち子孫は、理解してもいるのです。
大おじい様は領主になってから二百年にわたる長き役目を終えたと考えていて、これからこの地を発展させるのは、私たちシミンの手にゆだねる決断を下したのだと。
まず、間違いなく、大おじい様の頭の中にある地上の楽園には、まだまだ遠いのだと思います。
ですが、大おじい様は、我々にこの地を任せてくださった。
であれば、私たちは笑顔で大おじい様を送り出し、何も心配はいらないと請け負うことこそが、これまでの多大な恩義に少しでも報いる方法でしょう。
ニーナも、心の底では分かっていたのでしょう。
やがて泣き止み、ゆっくりと体を離しました。
ですが、ちゃっかりとしたところのある我が妹は、しっかりと大おじい様にある約束を迫っていました。
年に一度ほどで構わないので、元気な姿を見せに来てくださいと。
その言葉に大おじい様も笑顔になり、自分も私たちの元気な姿を見たいので、一年に一度と言わず、もっと頻繁に遊びに来てくれると約束してくださいました。
ですから、私たちもこれ以上、無様な姿は見せられません。
大おじい様に託されたこの国を、私たち自身の手で発展させていく様子を、大おじい様に見届けてもらわなければなりません。
それに、私たちは大おじい様の家族の一員として、これからは、クリスさんと幸せな結婚生活が送れるように、見守ってゆきたいと思います。
とても大きな役目を終えられた大おじい様のこれからの道行に、大きな幸せがあらんことを、心の底からずっと願っています。