先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第244話 ヒデオ暦
それから、またしばらくの時が経過していた頃。
ある日の閣僚会議の場で、思い出したように官僚の一人が質問を開始した。
「そういえば、臨時ダイトウリョウは、日付のずれない暦の研究をしていませんでしたか?」
私はそれに深く頷きを返し、より正確な答えを述べる。
「私ではなく、ダイガクで研究してもらっていますね。私は研究室を立ち上げて基礎的な考え方を示しただけです」
「それによると、一年は何日になるのですか?」
「およそ363.18日ですね」
質問をした彼は、それに少し驚いたような表情になって、疑問点を口にする。
「端数があるのですか?」
私はそれにまた深く頷きを返し、その理由の説明を開始する。
一日の長さは、この大地の惑星の自転周期によって決まる。それに対し、一年の長さは公転周期によって決まることになる。
これら二つの運動に直接の因果関係はないため、きっちりと整数で割り切れる方が珍しくなるのである。
ちなみに、ここで使っている惑星という単語も私による造語だ。惑う星という意味から名付けていた。
なぜ惑う星なのかといえば、夜空に描く軌跡から来ている。
惑星以外の星はかなり遠い位置にあるため、この星の自転に従い、北極点を中心とした綺麗な円周上を移動することになる。
それに対し、惑星はこの星のすぐ近くで太陽を中心とした公転軌道を描いているため、この大地の惑星から見ると、とても複雑な軌道を描くようになるのだ。
それが道に迷っているように見えるということで、惑う星、惑星となるのである。
そして、惑星という単語を作った私は、ダイガクでそれらを説明する際、私たちが暮らしているこの惑星のことを、大地の惑星と命名して説明したのだ。
先ほどの質問をしてきた彼が、続けて質問をしてきた。
「そのような小数点以下が存在していて、どうやってずれない暦を作るのですか?」
私はこの点についても、詳しい説明を開始した。
まず、今まで通りに一か月を30日とし、12か月で一年を360日とする。
そして、4、8、12月を31日とすることで、一年を363日と定める。
その上で、5年に1回を閏年として、5の倍数の年の2月を31日とする。
こうすると、一年平均で1/5日、つまり、0.2日増える計算になる。
ここまでの調整で、一年は363.20日となり、誤差は一年で0.02日となる。
これで数十年はずれない暦になるのだが、もう少し調整を加えて、さらに正確性を増すこととする。
誤差0.02日というのは、100年経過すると2日進む計算になる。
そこで、暦の下二桁が00と50の年は、閏年から除外する。
これによって、一年平均で2/100日、つまり0.02日減る計算になるため、一年が363.18日となり、数百年はずれない暦が完成するのである。
「まあ、これ以上に正確な暦を作ろうと思うと、もっと長い年月をかけて観測するか、観測技術そのものが向上しないと無理でしょうね」
私はこのように説明を締めくくった。
ちなみに、地球での一年の長さは、およそ365.2422日になっている。
そして、広く採用されているグレゴリオ暦での一年の長さは、365.2425日になっている。
誤差は一年で僅か0.0003日しかなく、計算上では、およそ3333年が経過しないと一日もずれない。
これほど正確な暦を、16世紀に制定していた事実には、驚愕を禁じ得ない。
当時の研究者たちに、私は最大限の賛辞を贈りたい。
閑話休題。
一同は驚いた様子で、私のこの説明をずっと聞き入ってくれていた。
「数百年が経過しないと一日もずれない暦なんて、もう十分ですよ。ぜひとも、この暦をヒデオ暦として正式採用しましょう」
私はその意見に顔を顰め、名称について異議を唱える。
「長年にわたって観測してくれたのはダイガクの研究者たちですから、ガイン公立ダイガク暦にしましょう」
しかし、この意見は全会一致で否決されてしまった。その名称だと、長すぎて言いにくいというのが主な理由だ。
結局、この新しい暦は、正式な大統領が選出されて建国された時点で、ヒデオ暦元年とすることが決まってしまった。
それまでは周知期間とされ、一般に告示されたのであった。