先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第238話 処刑よりも重い罰
みんなの不安を払拭した後も、会議は続いていく。
この国を改革していくための目標について、私は軽くではあるが、説明を開始する。
「では、これからの大まかな方向性について、説明しますね」
私に集まる期待の眼。
それらをざっと見渡してから、ずっと温めていた腹案を語り掛ける。
「まず初めに、ガイン自由都市へと遷都します」
わっと沸き返る会議場。
これで平民の首都が名実ともにこの国の首都になると、喜びをあらわにしている幕僚たち。
私はそれが収まるのを少し待ち、続きを語る。
「これは何も、象徴的な意味合いに限りません。旧態依然としたこの国を大改革するためには、有能な官僚たちが、多数、必要になってきます。ですから、この国で最も人材が充実しているガイン自由都市を首都にするのです」
みんな納得してくれているようなので、さらに続きを語る。
「次に、この国の全ての国民を調査、記録し、『戸籍』制度を作ります」
国民を調査という言葉に疑問を持った幕僚が一人いたようで、質問を始めた。
「その調査とやらは、最初に行う必要があるのですか?」
私は深く頷いて、首肯する。
「ええ。先にも述べましたが、最終的には入れ札、『選挙』を行って『大統領』を選出します。そのためには、どこに誰が住んでいるのかを、まずは調査して記録する必要があります」
質問者の彼も納得してくれたようなので、どんどんと続きを語る。
「次に、この国の全土に初等学校を設立し、一定年齢以下の子供はそこに通う、義務教育制度を作ります。もちろん、これは全額国庫負担とし、今から勉強しなおしたいという大人も含めて、国民であれば全員の授業料が無料になります。ガイン自由都市以外でも人材を育成するための第一歩でもありますし、発展政策の第一歩でもあります」
私が学校教育に熱心なのは、周知の事実になっている。「学問の父」の二つ名は伊達ではない。
また、ガイン自由都市の発展の実例からも、みんな学校教育の重要性を理解してくれているようで、誰からも反対意見はでなかった。
「最終的には、各地方の代表も『選挙』で『市民』たちに、直接、選んでもらいます。しかし、当面の間は、各地の有力者による合議制で地方自治を行ってもらいます」
これらの改革案をみんな好意的に受け取ってくれているようで、私は胸をなでおろした。中には、これからの天下国家を熱く語り合うグループも現れていた。
私はその様子を見て満足げに頷いていると、ゲイル将軍が感慨深げに感想を述べ始めた。
「なるほど。これがヒデオ将軍の言う、シミンによる国家ですか。自分たちのことは自分たちで決める。とても難しくはありますが、やりがいはありますな」
彼はウンウンと、一人で頷きながら納得している模様だ。そして、唐突に全く別方向の指摘を始めた。
「時にヒデオ将軍。明るい未来の話もいいですが、とりあえずの議題も話し合いましょう」
「それはなんですか?」
「捕えている王侯貴族どもの処刑の日程ですよ。些事にすぎませんが影響だけは大きいので、さっさと決めてしまいましょう」
それを聞いた周囲の幕僚たちも、そうだそうだと同調を始めた。
私はゆっくりと頭を振り、その意見を否定する。
「もう戦争は終わりました。これ以上の流血は必要ありません。彼らには三か月分程度の生活費のみを残し、財産を没収して一般『市民』として釈放します」
「そんな! 彼らがシミンにしてきたことを思えば、助命はありえません!!」
一気に騒然となる会議場。
しかし、私はあくまでも冷静な様子を崩さず、処刑しない利点を述べる。
「よくよく考えてみてください。処刑してしまえば、彼らの苦痛はそこで終わってしまいます。ですが、一般『市民』になってしまえば、自分のことは自分でしなければなりません。生活費ですら、自力で稼がなくてはなりません。プライドだけは無駄に高い彼らに、それができると思いますか?」
ここで、少し周囲の様子を伺ってみる。みんなまだ納得できていないようなので、もう少し説明を加える。
「どうせそんなお金はすぐに使い果たしてしまい、そのうち路上生活を始めるでしょう。これまでの生活との落差によって、彼らはずっと苦しみ続けることになるのです。簡単に楽にしてしまう処刑よりも、ずっと重たい罰になるとは思いませんか?」
ここまでの説明で納得してくれたものも多いようだが、一部の点については反対意見がでた。
「しかし、当面の生活費まで渡してやるのは、さすがに温情が過ぎるのではないですか?」
私はここで黒い笑みを浮かべ、その意義を語る。
「良く考えてみてください。彼らは追い詰められても対処できず、現実逃避をして、酒宴を開いているような連中ですよ? どうせそんなはした金を渡したところで、すぐに酒に変わってしまいます。それも、今まで飲んだことがないような安酒にね」
私はここで黒い笑みをさらに深め、続きを淡々と語る。
「かつて威張り散らしていた王侯貴族たちが、下町の安酒をあおって、一時の憂さを晴らす以外になにもできない。そんな姿を、あなたがたも見たくはありませんか?」
これを聞いてみんな納得してくれたようで、お互いに黒い笑みを浮かべて頷きあっている。
この後、噂としてこの処置の真の意味を流してもらい、それが十分に広まってから、かつての王侯貴族たちは解放されたのであった。