先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第237話 臨時ダイトウリョウ
王都を陥落させた我ら解放軍は、住民たちによる熱狂的な歓迎を受けた。
そして、そのまま、解放軍も住民も区別なくお祭り騒ぎを始めていた。そのため、私は全軍に一週間の休暇を与えた。
治安維持などに必要な最低限の人員だけを残し、できるだけ多くの兵士たちに休暇を与えるようにと指示を出しておいた。
私も連日の疲れが溜まっていたため、率先して休暇としゃれこむことにする。その際、私には国王の部屋が割り当てられていた。
「豪華すぎて落ち着きませんので、もっと質素な部屋に変更してもらえませんか?」
私はそのようにお願いしていたのだが、部下たちの全会一致で却下されていた。
なんでも、最高司令官の私が質素な部屋に泊ってしまうと、部下たちはもっと質素な部屋にしか宿泊できなくなってしまうらしい。
それもそうかと思った私は、おとなしく国王の私室へと向かう。ホッとしたこともあり、もう既に眠気がかなり強い。
豪華絢爛な寝台にはかなり引いてしまうが、贅沢は言っていられない。
このベッドは天蓋付きになっており、垂れ下がる布にはびっしりと刺繍がなされている。それに加え、四方を支える柱にも細々とした彫刻がなされている。
どうやら、これらの装飾は、リスティン王国の建国伝説が描かれているようだ。
暴虐の限りを尽くしたそれまでの王様を、立ち上がった民衆と共に追放したというストーリーになっている。
しかし、その子孫たちは建国の理念を忘れてしまい、今度は自分たちが排除されたのだから、皮肉な話だと思う。
(里の掘立小屋に住んでいた頃には、まさか、こんなにも豪華な部屋に泊れるようになるとは、夢にも思っていませんでしたね……)
思えば遠くまで来たものだと、そんな感想を抱きながら、あっという間に夢の世界の住人になっていた。
そして、翌日。
完全オフとなった私は、久しぶりに王都の市場に出かけて買い物でもしようかと、王城を出ようとした。
そうすると、たちまち市民たちに取り囲まれてしまった。
ここは貴族街で、かつての平民たちは、許可されたもの以外は立ち入り禁止になっていた。
しかし、もうそんなことは関係ない。
多数の市民たちが貴族街に立ち入っていて、観光を楽しんでいるようだ。
警備担当の兵士たちが頑張ってくれているらしく、秩序だって観光をしており、貴族の屋敷を略奪するような不心得者は存在しないようだ。
そんな心優しい市民たちではあるのだが、出口に姿を現した私を見かけると、歓声を上げながら殺到してきていて、門を守る兵士たちに押しとどめられている。
中には、以下のようなことを叫んでいる市民も、ちらほらといる。
「新国王陛下! 万歳!!」
私はそれに、苦笑を返しておいた。
まあ、それはいいのだが、出口付近で既に身動きが取れなくなってしまったため、慌てて王城内に逆戻りした。
「ううむ……。これでは、買い物にも行けませんね」
しばらく考え、とりあえずの時間つぶしとして、王城内を見学して回ることにした。そうすると、図書室を発見したので、これ幸いと久しぶりの読書に没頭することにした。
こうして、充実した休暇を過ごすことができた。
この休暇中には、フードで顔を隠してではあるが、何度か外出することにも成功していて、王都のお祭り騒ぎを見物することもできた。
十分に英気を養い、仕事モードに復帰した私は、早速、今後のことについて話し合うべく、会議を招集した。
しかし、謁見の間で私を玉座に座らせた状態で会議しようとは、いったいどういうことだろうか?
まあ、うすうすは分かっているが。
とにかく、私はそのことに強硬に反対したため、今は国王の執務室で会議を開いている。
他にいくらでも広い部屋はあるので、そちらを使うようにとお願いしたのだが、どうしてもと言われたため、そこは妥協して、この部屋になっていた。
その席で、開口一番、ゲイル将軍が予想通りの願望を述べる。
「これで、ヒデオ将軍が国王様ですな! そうすれば、この国の全土がガイン自由都市のような発展を遂げるでしょう。いや、まっことめでたい!!」
口々に祝福を述べ始める幕僚一同。
私はその喧騒が収まるのを、真顔になって黙って待ち続け、やがてみんなを見渡してから、はっきりとそれを否定する言葉を口にする。
「申し訳ありませんが、私は国王にはなりませんよ?」
その発言に、みんな一斉にフリーズした。
しばらくしてから、ギギギッと音がしそうな動作で私に顔を向けたゲイル将軍が、まるで懇願するかのようにして叫んだ。
「そ、そんな! 今、あなたに見捨てられたら、我々はどうなるのですか!! せっかく王侯貴族どもを駆逐したのに、それでは国中がバラバラになってしまう! 各地で王を名乗るものが続出し、戦乱の時代になってしまいます!!」
私は努めて冷静さを演出しながら、安心させるべく言葉を紡ぐ。
「安心してください。さすがに、ここで無責任に放り出すような真似はしません。ですが、私が国王になってしまいますと、『市民』のための国家にはなるかもしれませんが、『市民』による国家にはなりませんよね? 私はあの約束を、何があっても違えるつもりはありません」
私はここで、みんなの顔を確認する。
なおも不安がっている様子であるため、さらに言葉を続ける。
「国王にはなりませんが、『市民』だけの国、『共和』国を立ち上げるまでは、私は国の代表として、臨時『大統領』に就任します」
それを聞いて少し安心した様子ではあるのだが、聞きなれない単語に戸惑っているように見える。
私を除けばこの場で最高位になるゲイル将軍が、みんなを代表して質問する。
「ダイトウリョウとは、いったいどのようなものなのでしょうか? 国王とは違うのですか?」
私はそれに頷きを返し、肯定する。
「ええ。国王は死ぬか位を譲るまでずっと国王ですが、『大統領』には任期があります。今のところ、一期五年を考えています。そして、一番の違いですが、血統では『大統領』になれません。成人した『市民』の全員に、一人一票の入れ札を配布し、それに書かれた名前が一番多かったものが就任する仕組みにします」
私がそのように説明すると、みんなようやく安堵したようだ。
「それでしたら、安心ですな。この国のシミンであれば、ヒデオ将軍以外の名前を書くものがいるとは、とても思えませんからな」
そう言って、ワッハッハと笑いあう幕僚たち。
(まあ、立候補していない人物の名前を書いても、無効票になるだけなのですけどね)
心の中でだけ、私は反論しておいた。