先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第236話 リスティン王国の終焉
ヴィジャス砦を陥落させた我ら主力軍は、この戦争の総仕上げとして、王都の攻略を目指して進軍を続けていた。
最前列に装甲車部隊をズラリと並べ、空には熱キキュウ部隊を全機浮かべた状態で、ゆっくりとではあるが、可能な限り整然と進軍させていた。
「ヒデオ将軍。いつにもましてゆっくりな進軍の狙いは、いったいなんですかな?」
みんな不思議に思っていたようで、代表して副将のゲイル将軍が質問を繰り出してきた。
私はそちらに微笑みを向け、簡潔に解答を述べる。
「心を折るための演出ですね」
周囲のみんなの様子を少しうかがってみると、まだよく理解できていないようだったので、さらに説明を加える。
「難攻不落で有名なヴィジャス砦ですら、二日ともたずに陥落させるだけの力がこちらにはあるぞと、誇示しているのですよ」
そう。これは一種の示威行動だ。
たとえご立派な王城に籠城しようとも、我々には意味がないぞと脅しているのだ。
そして、ことさらゆっくりと喉元に迫っていくことで、真綿で首を締めるように、プレッシャーを与え続けているのである。
「まあ、無駄かもしれませんが、心を折ることができれば、無益な戦いをしなくても相手を下せますから。戦わずに勝てるのであれば、それが一番いいのですよ」
私は、こう、説明を締めくくった。
そうすると、別の幕僚から思わぬ提案をされることになる。
「なるほど。意図はよく分かりました。しかし、それでしたら、最も敵にプレッシャーを与えられる存在を忘れておられますよ?」
「ほう。それは何ですか?」
「ヒデオ将軍ご自身です」
「へ?」
私は思わずポカンとしてしまい、間抜けな声で聞き返してしまった。
彼らの説明によると、一連の新兵器は確かに強力ではあるが、それらの全てを作り出したのは、他ならぬ私自身であると指摘を受けた。
そのため、味方からは軍神のごとく崇められているが、敵にとっては、悪夢のような存在として認識されているらしい。
「だから、私が言ったでしょう? 王侯貴族たちは、絶対に敵に回してはいけない相手に対して、喧嘩を売りすぎたのですよ」
とは、ゲイル将軍の言である。
「ですから、ヒデオ将軍。あなた自身が神輿となって、そうですね、あの装甲車の上で存在を誇示してください」
私の頬が、思わずヒクッと引きつる。
「いや……。あの、それはとても恥ずかしいので、できれば勘弁して欲しいのですが……」
私は歯切れも悪く拒否しようとした。
しかし、私が陳列されると、敵に対する威圧効果の他に、味方を鼓舞する効果も絶大だと、口々に説明を受けた。
(こ、これも仕事のうちと割り切りましょう)
思わずトホホと言ってしまいそうな心のうちを無理やり押し殺し、黙って了承するハメになってしまった。
彼らの行動は迅速だった。
ただ、装甲車部隊内で、誰が私を乗せて運ぶかでモメにモメたのだそうだ。最終的には決闘騒ぎにまで発展しかけたので、私に直接決めて欲しいと言われた。
私は投げやりにその場でワシのクジを作り始め、抽選会を行うことを宣言した。
その方法はあまりにも、と苦情を言われたので、投げやりついでにヤサグレながら、建前を述べる。
「一応、私は総大将になっていますからね。私が死んでしまうと、我が軍の敗北になってしまいます。ですから、最も幸運なものに守って欲しいのですよ」
こうして、どうでもいい争いは回避され、レーニという若い兵士が当たりクジを引き当てた。
そして、その日のうちに、装甲車の上でみんなに見えるような高さの椅子が取り付けられた。
私はそこに座らされ続けるという、羞恥プレイに耐えざるを得なくなった。なってしまった。
ことさらゆっくりと進軍することを決めた過去の自分の後ろ頭を、全力で殴り飛ばしてやりたい。
そして、一か月後。
ようやく、王都に到着した。
熱キキュウ部隊のいくつかにボウエンキョウを持たせ、偵察に出した。そうすると、明らかに弓の届く高度まで降りて来て、じっとボウエンキョウを覗き込んでいるように見える。
「あんな高度で大丈夫なのでしょうか?」
私はとても心配になったのだが、どの熱キキュウも攻撃されることなく、無事に偵察任務を終えて帰還してきた。
そして、意外すぎる結果が報告された。
「戦う準備をしているものは、誰もおりません」
「では、彼らは何をしているのですか? もしかして、降伏の準備ですか? それにしては、未だに使者も来ていませんが……」
「それが、その……。酒宴を開いて、ドンチャン騒ぎをしているようにしか見えないのです」
これは何かの罠かと疑った私は、さらに地上からも斥候を、多数、放った。
そうすると、事実、誰も防具すら纏っておらず、すんなりと内部に侵入できたと報告を受けた。
実際に酒宴も開いており、真っ昼間から大酒をあおっていて、仮に罠だったとしても、あれではまともに動けないだろうとも言われた。
「これは、いったいどういうことなのでしょうか?」
私が思わずそのように疑問を呈すると、王城で料理人として働いている市民と接触したものがいたらしく、内情を語ってくれた。
「それが、ヒデオ将軍の脅しが、少々、その、効きすぎたようでして。心を完全に折られて抵抗する意思を失い、貴族どもは現実逃避を開始したのだそうです」
「え? では、財産を纏めて逃げ出すことすらしていないと?」
「はい。どうも、その気力すら失っている模様です」
予想の斜め上の解答であった。
その後に続けられた報告によると、その料理人さんは、貴族どもが全てを失う瞬間が見たいがために、今でも下働きを続けているらしい。
なので、早く突入して、あいつら全員の絶望する顔を見せてくれと、そう言われたのだそうだ。
それらの報告を受けた私は、早速、突入部隊の選出に入った。
念には念を入れて、空挺部隊から人を選りすぐって王城に向かわせた。空挺部隊にしたのは、彼らは本来、敵地のど真ん中に降下して戦う部隊だからだ。
なので、もし罠にはまって王城内で孤立するような場面があったとしても、彼らであれば生還できるだろうと考えたのだ。
罠である可能性を完全には否定できないからと、至極、真面目に説明したのだが、みんなからは心配のしすぎだと笑われていた。
「リスティン王国が終わる瞬間に立ち会える名誉を我らの部隊に任せてくださり、光栄の極みであります」
空挺部隊の隊長は、そう言って、いい笑顔で王城に向かっていった。
実際にみんなの考えていた通りであったようで、誰一人として抵抗するそぶりすら見せず、直前まで酒をあおって、そのまま捕縛されていったのだそうだ。
今は国王本人を含め、全員まとめて王城の地下牢に放り込んでいるらしい。
こうして、拍子抜けするほどあっけなく王都は陥落した。
この日、この時をもって、リスティン王国は終焉を迎えたのであった。
なお、これは余談になってくるのだが、この日のやりとりが広く民衆に知られるようになり、「初代様が戦場で指揮を執る」という、新たな故事成語が誕生してしまう。
前世で言うところの「石橋を叩いて渡る」のような意味合いで使われていて、「この案件は初代様が戦場で指揮を執るように、慎重に進めるのだ」のような使い方をされるようになるのである。