先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第235話 ヴィジャス砦の陥落
おびき出した敵軍を壊滅させた、その翌日。
主力軍の全軍をもって威圧するようにしながら、ヴィジャス砦の前に布陣していた。
背面攻撃を仕掛ける方法の解答は、我らの頭上にある。
空に浮かぶ熱キキュウの群れである。
しかし、気球は、基本的に風任せでしか移動できないものだ。そこで、かつてイジェクトの魔法開発で使用した風魔法を応用し、魔道具として落とし込んでいて、それを搭載して推進力にしていた。
ただ、人が乗るゴンドラ部分に推進器を搭載したのでは、効率が悪くなってしまう。そのため、気球部分の八方向に風魔法の起点を作っていた。
この構造にするためには、長い配線が必要になって来る。もし、まともに魔法銀を使用して用意していたのであれば、恐ろしいほどの大金が必要になっていただろう。
しかし、合金を自作できる自分をフル活用していて、相場と利益を完全に無視して、その問題を回避していた。
「大おじい様は、本当に、手段を選びませんね……」
開発の現場を視察に来た領主のユキムラが、呆れ顔になりながら、そう、感想を述べていた。
とにかく、このようにして準備していた熱キキュウ部隊は、今回、用意した新兵器の中でも切り札になる。
その切り札を、今、切る。
「熱キキュウ部隊、前進」
「熱キキュウ部隊! 前進開始!」
合図の太鼓と併用して、今回は通信兵による大型のライトを使った光信号も加わる。これは、上空までは音が届きにくいことを考慮に入れたためである。
推進器の魔道具が起動され、ゆっくりとヴィジャス砦の真上へと向かってゆく、熱キキュウの群れ。
それを見た我が軍の兵士たちから、歓声が上がる。
一方、ヴィジャス砦に陣取っている残り少ない貴族たちは、固唾を吞んで見守っているようだ。
当然ながら、弓の射程の遥か上空を飛んでいるため、彼らになすすべはない。
そして、部隊の全機が所定の位置に到達したのを確認してから、次の命令を簡潔に下す。
「だいなまいと、投下」
「熱キキュウ部隊! だいなまいと投下開始!」
爆発するまでの時間を微調整できるように、少し長めの導火線を持つ投下専用のだいなまいとが落下してゆく。
投げずに落下させるだけで良くなるため、大きさも通常のものに比べて大型化しており、爆発力も増加している。
砦のあちこちで爆発が起こり、騎士たちの阿鼻叫喚の声がここまで聞こえてくる。
そして、じっくりと時間をかけてリスティン王国初の空爆を継続した後、次の無慈悲な命令を伝える。
「熱キキュウ部隊、射撃開始」
「熱キキュウ部隊! 射撃開始!」
ゴンドラ下部に設置されている矢間を開き、そこからえあがんを突き出して一斉射撃が開始される。
ただでさえ残り少なくなっていた貴族たちが、さらにバタバタと倒れ、削られてゆく。
そして、あらかた敵を掃討したのを見計らい、さらに次の命令を下す。
「『空挺』降下開始」
「はっ。クウテイ部隊! 降下開始!」
この日のために厳しい訓練を突貫で積み重ねてきた、とっておきの空挺部隊が次々に降下を始める。
空に落下傘の花が咲き乱れる。
その光景に味方は勝利を確信し、敵は絶望していることだろう。
空挺部隊のえあがんには、近接戦闘も考慮して銃剣が装備されている。しかし、明らかに敵は戦意を喪失しており、おそらく出番はほとんどないだろう。
そして、壁の内側に次々と降下した空挺部隊は、速やかに門を開いた。
「前衛部隊前進。砦を占拠せよ」
「前衛部隊! 前進開始! 砦を占拠せよ!」
悠然とした歩みで進んでゆく、前衛のガイン自由都市軍の精鋭たち。
念には念を入れて、不測の事態が発生した時のことまで考え、この突入には最精鋭部隊を投入している。
さすがにやりすぎかもしれないが、戦争というものは少しの油断で全てを失ってしまう、とても恐ろしいものだ。
慎重すぎるくらいに完璧に準備を怠らないことこそが、戦争においての勝利の方程式だろう。
砦に突入した部隊は、戦闘らしい戦闘もないまま、あっさりと砦を占拠した。
ここに、難攻不落を誇ったヴィジャス砦は、僅か小一時間ほどの一方的な攻撃で、あっけないほど簡単に陥落したのであった。