先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第234話 ヴィジャス砦攻防戦
ヴァルチェの都市を解放した我が軍は、住民たちからの熱狂的な歓迎を受けていた。
頑張ってくれている兵士諸君に英気を養ってもらうため、交代制ではあるが、三日間の休暇を与えた。
それから一か月ほどゆっくりと進軍し、今は王都までの道のりで最大の難関となる、ヴィジャス砦の近くまで来ていた。
軍議の席で、大きな石板に書かれた地形情報などを、配られたワシの資料と共に副官のシルバが説明する。
「このように、ヴィジャス砦は、両側の山を繋ぐように狭隘地に建設されている壁になります。普段は関所として使用されていますが、本来の使用目的は王都への最終防衛ラインです。壁は高さも幅もかなりあるため、おそらくは、だいなまいとを投げつけたぐらいでは、ビクともしないでしょう」
この難攻不落の砦の攻略法をなんとか考えるのが、今回の軍議のテーマだ。
ゲイル将軍がみんなを代表して、意見を述べる。
「正直に言って、ここに立てこもられると、攻略はかなり難しいでしょうな。ですが、私には、ヒデオ将軍のお顔に余裕があるように見えます。何か策があるのではないですかな?」
私はそれに頷きを返し、攻略法を述べる。
「基本的には、前回と同じ策になります。ただ、敵も手痛い敗北で学習したでしょうから、生半可な手段では誘い出せないと思います」
そして、私は、誘い出した敵を撃破した後のことについても説明を続ける。
「また、上手く誘い出せたとしても、全ての敵が一度に出てくることはないでしょう。ですから、誘い出した敵を撃破して相手の数を減らした後にも、砦そのものの攻略が必要になってきます。そして、こういった砦は、前方に対して比類なき強さを誇ります。そこで、後ろ側からの攻略を目指します。背面攻撃ですね」
こういった壁の様な形をした砦の場合、背面からの敵に対しては意図的に弱く作っているものである。
これは、万が一、敵に奪取された場合でも、後に自分たちで取り返すのを容易にするためという意味合いになる。
今回はその点をついて攻略させてもらうのだ。
その後に続いた軍議では、私の提案した策をベースに、具体案を詰めていく作業になった。
そして、翌日。
軽装備に木製の大盾と小型のえあがんを装備した部隊を私が直接率いて、ヴィジャス砦の前に布陣していた。
「攻撃開始」
「全軍! 攻撃開始!」
太鼓の音と共に部隊が前進していく。
大盾を頭上に掲げて矢を避けつつ、その隙間から小型のえあがんを用いて射撃を試みる。しかし、相手は矢間から弓を打ち下ろしているため、ほとんど効果がない。
それでも、辛抱強く攻撃を続け、それなりの時間が経過したところで、作戦の第二段階へと移行する。
「全軍、後退」
「全軍! 後退!」
合図とともに、じりじりと下がり始める我が部隊。しかし、この程度ではつり出されてくれない。
そこで、ある程度の距離を稼いだところで、作戦の第三段階へと移行させる命令を、至極、簡潔に下す。
「全軍、逃げろ」
「はっ。全軍! 撤退! 撤退!」
部隊の後方から全速力で逃げ出す、我が軍の兵士諸君。
手に持った大盾を放り出し、必死に走って距離をとる。しかし、あらかじめ厳命していた通り、えあがんだけはしっかりと保持して走っている。
さすがに、これには相手も好機と見たのだろう。門を開けて騎兵隊が飛び出してきた。
もちろん、これは予定通りの偽装撤退である。
かなり本気で走ってもらうように、あらかじめ言い含めておいたのだ。一応、兵士の走る速度と騎兵の走る速度を計算していて、間に合う距離まで撤退すればいいようにはしている。
念のため、私が殿軍を務めて、土壁の魔法を広く展開して妨害もしている。その上、私だけは、魔法を展開し続ける関係で、魔力ジドウシャに乗せてもらって撤退している。
それでも、さすがに生きた心地がしなかった。
というのも、部隊運用において、規律を守って撤退するのが、一番、難しいからである。そのため、念には念を入れて、この逃げ惑っているように見える部隊は、ガイン自由都市軍の中でも最精鋭部隊を当てている。
そうやって逃げ続けると、やがて輸送用の魔力ジドウシャのとらっくが見えてきた。その脇をみんなですり抜け、やっと一息つく。
ここが、指定した逃げ込み先だからだ。
そうすると、どこからともなく、合図の太鼓が鳴り響き始める。
「なんとか勝ちましたね……」
予定通りに、副将のゲイル将軍が、絶妙なタイミングで合図してくれたものだ。
その合図によって、それまでとらっくに見えていた魔力ジドウシャの上部の布が一斉に取り払われ、武骨で巨大なえあがんが姿を現す。
そう。これはとらっくに偽装して輸送部隊に紛れ込ませていた、新兵器の装甲車だ。
装甲車部隊は、素早く回り込んで敵兵を完全に取り囲み、射撃を開始した。
大口径えあがんの威力は凄まじく、たった一発で、お貴族様のご立派な鎧を貫通して大穴を開けていく。
それが四方八方からフルオートで射撃され続けるのであるから、人間は鎧もろともに一瞬で肉片に変わっていく。
「包囲は必ず欠くのではないのですか?」
前日の軍議で、そう指摘するものもいた。
「何事にも例外はあります。今回、敵を逃がしてしまうと、逃げ込む先はあの砦になります。そうすると、どのみち相手にはもう後がありませんから、そこで必死になって頑強に抵抗してくるでしょう。砦でそうされるよりは、平野部での方がはるかにマシです」
今回は逃げ道を全く用意していない。完全に装甲車で取り囲み、内部に搭乗していたえあがん部隊を隙間に配置していて、射撃を続けている。
相手が完全に沈黙してから、射撃停止を命令した。
辺りは一面の血の海になっており、その肉片が元は人間であったと認識できるものですら珍しいという、かなり凄惨な状況になっていた。
「こ、これが、『耳長の悪魔』の本気の戦争……」
どこからともなく、そんな感想が聞こえてきた。
またしても、私の悪名が広がりそうではあるが、ここまでくれば、それも、もう、気にならなくなっていた。