先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第233話 ヴァルチェの都市攻防戦
それから、さらに一か月ほどが経過した頃。
王国軍は残った兵力をかき集め、進路上では王都を除けば最大の都市であるヴァルチェの都市へと集結させているらしい。
軍議の席で、ゲイル将軍が発言する。
「籠城戦を選択されると、少々、厄介ですな」
私はそちらに顔を向け、少し首を傾げながら否定する意見を述べる。
「そうですか? 私はその方が助かりますが」
幕僚たちの視線が私に集まったので、その理由を説明する。
「王国軍の残存兵力を計算しますと、籠城されたところで、大規模な援軍は送れるはずがありません。ですから、包囲してゆっくりと茶でも飲みながら、兵糧攻めとしゃれこみましょう」
私のその意見に対して、幕僚の一人が少し渋い顔をしながら反対意見を述べる。
「しかし、それでは、時間がかかりすぎるのではありませんか?」
私はそちらに笑顔を向け、それでも構わないと説明する。
「以前とは状況が違い、時間は我らの味方です。ですから、じっくりと包囲して待っていれば、各地の方面軍が、やがて王国全土を掌握するでしょう。それからゆっくりとこの地に集結し、全軍をもって攻めれば、余裕で勝てますよ?」
それからしばらく進軍していくと、斥候からの報告が入った。
「敵軍は野戦を選択した模様です。ヴァルチェの都市の前方の街道上に、陣地を構築中」
それから開かれた軍議では、今回、採用する陣形などを説明した。
「相手はあらかじめ陣地を構築して待ち構えています。力攻めでも負けはしませんが、防護用の柵も用意されていますから、こちらの被害も大きくなるでしょう。そこで、少し部隊運用を工夫します。ちょっと複雑な連携が必要になってきますが、なに、これまで実戦経験を積んだ我らであれば、必ず完遂できるでしょう」
そして、予定通りに街道を進み、敵の陣地前でこちらも布陣した。
我が軍の陣形は、縦深陣になっている。数的有利にあるため、縦に長い陣形で、本来は防御陣形である。
だが、今回はこれを一工夫して攻撃に用いる。
進軍の合図と共に、我が軍がじりじりと前進を始める。
前回までと異なり、相手は陣地に閉じこもっているため、こちらだけが進み続ける。そのため、三段構えの射撃体勢を取らず、歩いて進みながらの射撃になっている。
射撃密度がぐっと下がっているため、相手にほとんど被害が出ていない。
それを見た敵は好機と見たのか、大盾を掲げて陣地から出陣し、じりじりと進み始めた。
私はにんまりと笑みを浮かべる。
「よし。予定通りですね」
そのまま無策を装い、密度の低い射撃を続けさせる。
そして、かなり接近を許し、そろそろ敵の後方部隊の弓が届きそうになった時点で、新たな命令を下す。
「全軍、第二陣形へ移行」
「はっ。全軍! 第二陣形へ移行!」
いつもの復唱の後に、太鼓が鳴り響く。
それに合わせて、真ん中が割れるようにして、左右に陣形が分かれてゆく。
それを見た敵軍は、こちらが怯んでおり、好機だと見たのだろう。その隙間に殺到してゆく。
こちらの真ん中がどんどんと割れてゆき、まるで無人の野を行くようにして、本陣へとせまる敵軍。
しかし、これこそが私の狙いなのだ。
そして、もう少しで本陣というところで、敵は異様な陣形を取っている集団を見ることになる。
重装備を着込んだ歩兵たちが、盾をずらりと並べ、ロングライフル型のえあがんに銃剣を装備して掲げている。盾は自分の体の左半分と隣の兵士の右半分を覆い、がっちりとガードを固めている。
この陣形はファランクス、あるいは、重装歩兵密集陣形と呼ばれるものである。前方の敵に対して非常に強固な防御力を誇る陣形だ。
本来であれば、右手に持つのは長槍になるのだが、そこは近代の軍らしく、銃剣付のえあがんに置き換わっている。
有名なテルモピュライの戦いでは、狭隘地を利用したとはいえ、僅か三百人のスパルタ兵が、二十万ものペルシア軍を長期にわたって釘付けにした陣形である。
ガイン自由都市軍の誇る最強の防御部隊によって、敵軍の足がついに止まる。
それを見計らって、次の命令を下す。
「第三陣形へ移行」
「全軍! 第三陣形へ移行!」
鳴り響く太鼓の音に合わせ、左右に割れていった部隊たちが横を向きなおし、半包囲の状態を作り出す。
そう。相手が陣地に立てこもっているのであれば、誘い出せばいい。そのために、中央突破されたように偽装したのだ。
そして、左右の部隊が、そのままいつもの三段構えの射撃体勢を速やかに整える。
「射撃開始」
「左右の両部隊! 射撃開始!」
そして始まる、猛烈な射撃。
敵軍はあっという間に壊滅を始めた。唯一、開けておいた逃げ道の後方へと、我先にと殺到していく。
味方を押しつぶし、踏みつぶしながら逃げ惑う貴族たち。
こうして、我々は三度目となる大勝利を手にした。
そのまますんなりと、ヴァルチェの都市を占領したのであった。