先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第232話 クェント盆地の戦い
初戦の大勝利から、二か月ほどが経過した頃。
王国軍は、再戦のための準備を進めているらしい。
もしかすると、この主力軍を避けて、別の方面軍を狙うかもしれないと予想するものもいた。その場合は、王都を急襲して彼らの補給線を破壊し、帰る場所をなくしてから、じっくりと料理すればいいだけだと説明していた。
しかし、偵察部隊からの情報によると、彼らはえあがん対策の分厚い大盾を必死に量産しているらしい。
どうやら、この主力軍を無視する愚策は弄さなかったようだ。そのため、こちらもことさらゆっくりと進軍を続け、強固な補給線を構築していた。
油断は禁物である。
たとえ、それまでに百連勝していたとしても、百一戦目で大敗して全てを失ったのでは意味がない。
そして、ようやく準備が整ったのか、王国軍とクェント盆地で会敵した。
王国軍は騎馬を使わず、大盾を並べた密集陣形を採用している。
それに対し、こちらは左翼が前方にせり出し、右翼が後方に下がる斜行陣を採用している。
相手に対して斜めに布陣するこの陣形は、どこからでも横方向から攻撃できる陣形になる。
単純な陣形である割に効果的なのだが、欠点もある。
最初に敵にあたることになる最も突出した左翼部隊の負担が、とても大きくなるのだ。そのため、この部隊には、ガイン自由都市軍の中でも選りすぐりの最精鋭でそろえている。
「王国軍は、あくまでもこの主力軍を打倒したいようですな」
ゲイル将軍が、ちょっとした雑談を始めた。
「まあ、対策は取っているようですが、愚か極まりないですね」
「なぜですか? 少なくとも、えあがん対策としては有効だと思いますが?」
私は敵陣をざっと見渡し、その愚策ぶりを指摘する。
「騎兵の最大の武器は、その機動力です。確かに盾を用意すれば、弾除けにはなるでしょう。ですが、それによって、自分たちの長所を潰してしまっていることに、全く気づいていないのですよ」
そうしているうちに、戦いが始まった。
前回の焼き直しのように、じりじりとお互いに距離を詰めていき、こちらからの射撃が始まった。
相手はしっかりと盾を構えているため、ある程度は被害が抑えられているように見える。
しかし、射撃密度が高すぎるため、その圧力で盾を吹き飛ばされるものが続出し、次々とミンチになっていく。
このまま押し切れるかとも思われたのだが、敵もさるもので、数人がかりでしっかりと大盾を支えるようになり、ゆっくりとではあるが、着実に距離を詰め始めた。
そんな中、首を振りながらゲイル将軍が感想を述べ始める。
「私は、ヒデオ将軍が恐ろしくて仕方ありません……」
「突然、どうしたのです?」
彼はじりじりと進み続ける敵陣を、目を眇めて見つめながら、その心のうちを語りだした。
「この先の展開まで予想して、対策を立てておられたのです。味方にすれば頼もしいことこの上ないのですが、ひとたび敵に回せば、これほど恐ろしい人を私は知りません。私は貴族たちに対して、初めて憐憫の情を抱いているぐらいですよ」
彼に指摘された通り、相手がえあがんの対策を取って来ることまでは、予想の範囲内になっている。
そして、ある程度、距離が縮まった時点で、次の命令を伝える。
「左翼第一陣、だいなまいと投擲準備」
「左翼第一陣! だいなまいと投擲準備!」
いつものように、副官のシルバによる復唱の後、合図の太鼓が鳴り響く。
そして、かなり距離が縮まり、相手がもう少しと思い始めたであろうところまで接敵した時点で、次の命令を簡潔に伝える。
「だいなまいと、投擲開始」
「はっ。左翼第一陣! だいなまいと投擲開始!」
合図の太鼓がまたも鳴り響く。
各人に配布しているヒデオ工房特製の超小型の火種の魔道具を使って導火線に火を点け、次々と手榴弾型のだいなまいとを投げつけ始める。
また、より遠くへと飛ばすために、天然ごむを利用した大型のスリングショットのような弓、弾弓も用意されており、それも併用されている。
密集してえあがんの弾を防いでいた敵陣に次々と落下していき、轟音とともに敵兵をまとめて吹き飛ばしてゆく。
「では、ゲイル将軍、後は任せませすね。私は予定通り、打ち漏らしを始末しに前線へと向かいます」
「はっ。ご武運を」
そして、私は宣言通りに最前線へと向かい、魔法を発動する。
『多重水槍』
細く鋭くした水槍の魔法を多重起動する。今回は精密誘導が必要になってくるため、同時起動数は五つだけだ。
それぞれがホーミングしてゆき、目の部分や繋ぎ目など、鎧の隙間部分を正確に穿ってゆく。
ガイン自由都市軍の兵士諸君も、えあがんに銃剣を装備しており、倒れた敵兵を確認しながらとどめを刺していく。
そうやって、生き残っていた敵兵を薙ぎ払い続けると、やがて左翼の第一陣は敵陣を突破していた。
こうなると、斜行陣の強みが発揮される。
敵の横腹に出た左翼の第一陣は、流石に最精鋭部隊である。あらためて指示を出されなくても、当初の予定通り、整然と横方向からの猛烈な射撃をお見舞いする。
大盾を前方にしっかりと構えていた敵ではあるが、これになすすべがあるはずもなく、あっという間に崩れ去っていった。
またしても、散り散りになって逃げだしてゆく敵兵たち。
こうして、僅か小一時間程度の攻防で、我々は大勝利を重ねたのであった。