先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第231話 アーネ平原の戦い
ガイン自由都市で出陣してから、一か月ほどが経過した頃。
私が直接指揮する主力軍は、真っすぐに王都を目指していた。しかし、後方の補給線を確保するため、途中の村々を解放しながらゆっくりと進軍を続けていた。
そんなある日。
本日の野営準備をしていたとき、その知らせが斥候からもたらされた。
「進軍経路上に、王国軍の騎兵隊を発見しました。接敵予想時刻は二日後になります。おそらくは、アーネ平原あたりで会敵すると思われます」
私は、相手の装備や編成などのさらなる詳細情報の収集を指示し、早速、本陣で軍議を開いた。
「やはり、こちらに来ましたか。ヒデオ将軍の読みの通りですな」
こうなることはあらかじめ説明していたため、特に混乱もなく、落ち着いて軍議が進められた。
実は、この主力軍が、一番、数が少なくなっており、また、王都に直進するコースを進んでいるのは、最初に狙ってもらうためである。
敵の本拠地に向かっている形になるため、相手からすれば無視するのは悪手になる上に、数が一番少ないことから、最初に撃破しやすい相手に見えたことだろう。
しかし、この主力軍の中核は、精鋭中の精鋭であるガイン自由都市軍で構成されている。
「ただ、遮蔽物のない平野部での戦いになりますから、騎兵の強みが最大限に発揮されてしまいますな」
副将に任命したゲイル将軍の言である。
彼はガイン自由都市軍のトップで、初代のカント将軍から数えて九代目の将軍になる。現在、五十二歳の油の乗り切った年齢であり、その点では、我々は幸運であったと言えるだろう。
「まあ、一番、与しやすく見えるようにしましたから、あえて相手に有利な地形で、正面切って戦いましょう。それを粉砕してこそ、長年にわたって鍛え続けてきた、ガイン自由都市軍の精鋭たちの初陣としてふさわしい。そうは思いませんか?」
そして、二日後。
予定通りに、アーネ平原でお互いが布陣した状態で向き合った。
双方ともに単純な横陣であるが、こちらは最前列に、主力のガイン自由都市軍を配置している。
やがて、どちらともなく、じりじりと距離を詰め始めた。
騎兵は速度が最大の武器になるのだが、馬の足には限りがある。そのため、あちらもぎりぎりまで足を温存して、一気に騎兵突撃をかけて蹴散らすつもりだろう。
そうはさせないが。
「そろそろ、いい頃合でしょう。射撃体勢に入れ」
「はっ。射撃体勢に入れ!」
副官のシルバが命令を復唱し、それに合わせて太鼓の合図が鳴り響く。
「では、ゲイル将軍。全軍の指揮は任せますね」
「はい。ヒデオ将軍の雄姿を、ぜひとも我が同僚たちにお見せしてきてください。そうすれば、兵たちの士気も上がりますので」
私は事前の打ち合わせの通り、最前線へと向かう。
ちなみに、銃を構えるとき、地面に寝そべっている姿を思い浮かべた人も多いだろう。弾をジャンプしてよけることは不可能であるため、姿勢を低くして当たりにくくしているのである。
しかし、今回は相手に銃がない。そのため、セオリーを無視した射撃体勢を取っている。
つまり、寝そべった状態、膝立ちの状態、棒立ちの状態の縦に三列を作り、射撃密度を激増させているのである。
私も配置について、その時を待つ。
あらかじめ用意していたお立ち台の上に立ち、敵からも味方からも見えやすい状態を作る。兵たちの士気を上げるためとはいえ、見世物になるのはちょっと恥ずかしい。
相手を十分に引き付け、そろそろ相手が突撃を始めるかという絶妙な位置取りで、射撃開始の合図が鳴り響く。
シュシュシュと、まるでサイレンサーを付けた銃の様な発砲音を鳴り響かせながら、一斉射撃が始まる。あまりに連続して発砲音が響くため、シュウゥゥゥンの様な、一連の音に聞こえるほどだ。
それに頼もしさを感じながら、私も自分の仕事を開始する。
『多重石弾』
私の頭上に、百二十個もの石の弾が形成される。
流石にこの数になってくると、それぞれを誘導するような真似は不可能になってくるのだが、ただ真っすぐに飛ばすだけなら、これぐらいはいける。
兵士たちの猛烈な弾丸の嵐に、私の弾丸も加わる。
『多重石弾』『多重石弾』『多重石弾』『多重石弾』『多重石弾』
同時に複数の魔法式が構築できる純血のアルクの特性を活かし、五重に起動した魔法式のトリガー名を唱え続ける。
百二十発もの石弾を、たった一人でまとめてつるべ打ちにし続ける。
それを見た兵士たちから歓声が上がる。
「見ろよ! あれこそが伝説の『耳長の悪魔』の魔法だ! 勝てる! 勝てるぞ!! ヒデオ将軍が味方である限り、我らの勝利はゆるぎないぞ!!」
目論見通り、士気が上がる兵士諸君。
私の弾丸も含めて、恐ろしいほどの密度で発射され続ける弾丸の嵐。
相手はなすすべもなく、次々と倒れてゆく。
ご立派な金属鎧を着込んでいるため、一発二発では貫通しないが、それでも雨あられと猛烈に飛んでくる弾丸の圧力だけで、鎧を吹き飛ばしてゆく。
また、騎兵突撃の速度を高めるためだったのだろう、馬までは重装備にしていなかった。そのため、騎馬が一瞬でひき肉に変わってゆく。
仮に鎧が無事だったとしても、あれだけ重量のあるものを着込んで馬から落下すれば、それだけでも人間は簡単に死んでしまう。
結局、こちらは一兵たりとも失うことなく、接近することすら許さず、僅か三、四分程度の時間で、相手が散り散りになって逃げ惑い始めた。
こうして、我ら主力軍の初陣は、圧勝という単語でも言い表せないほどの完全勝利で、王国軍を鎧袖一触にして終演した。