先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第230話 名軍師
解放軍が華々しく出陣した直後。
私は解放軍の致命的な問題に気づき、頭を抱える羽目になる。
自分が、直接、指揮する部隊には、きちんと兵站を整えていた。
しかし、それ以外の方面軍の将軍たちは、兵糧の輸送の必要性さえも、全く理解していなかったのだ。
そのため、急遽、主だった幕僚たちを集め、緊急の幕僚会議を開くことにした。
(これは、長い間、戦争をしてこなかった弊害でしょうね……。兵站の必要性などの用兵の知識が、全くないようです)
会議の手始めとして、認識を改めさせることにした。
「この聖戦は、小規模で短期間の小競り合いではありません。大規模で長期間の本物の戦争です」
一つ一つ丁寧に、兵站の考え方を説明していく。
「戦争で勝つためには、入念な前準備こそが最も大切になってくるのです」
兵糧の大切さを強調する。
「どんな精鋭でも、食べ物がなければまともに戦えません」
補給の大切さを説明する。
「また、十分な医療物資などもなければ、長期にわたって戦い続けることが不可能になります」
続けて、兵站の概念について説明する。
「そのため、必要十分な量の各種物資を運ぶための経路などを、まずは決めてしまいます。これを補給線と言います。また、これらの概念を相称して『兵站』と言います。戦争で勝利するためには、この『兵站』を、何よりも最優先で整備しなくてはなりません」
このようにして、少しずつではあるが、強固な補給線を構築する大切さを理解してもらった。
それから、一週間後。
ようやく、解放軍の全軍の兵站が、急ごしらえではあるが整備された。
そして、次に、ボウエンキョウを積極的に活用した大規模な偵察部隊を編成し、各地区の方面軍の全部隊に配置した。
そのために、私は情報の大切さを強調する。
「彼を知り己を知れば百戦危うからず、と言います。私の故郷に古くから伝わる、とても大切な格言です」
続けて、作戦立案の重要性について説明する。
「勝ってから戦いを始めるのが、真の名将なのです。そのため、前もって入念に下準備を重ね、まずは勝ちやすい状況を用意します。そして、勝ちやすいときにきっちりと勝利するのが名将です」
私はここで、幕僚たちを見渡す。どうやら、熱心に耳を傾けてくれているようだ。
「ですから、戦う前に各種の情報を集め、状況を冷静に分析し、十分に勝てる作戦を立案しなくてはなりません。もし、勝てる見込みのない相手であれば、戦いをあらかじめ避けて、他の方面軍と合流するなどを検討してみてください」
そのまま、真の名将についての説明を加える。
「周囲から見ると、簡単に勝てる戦いしかしていないように見えます。そのため、凡将に見えるかもしれませんが、これが常にできる人こそが、本物の名将なのです」
次に、戦いを終わらせるための大切な概念を伝える。
「貴族たちが降伏してきたら、無益な殺生はせず、そのまま捕虜として受け入れてください。逃げ出しても、無理に追わなくて結構です」
とんでもない、皆殺しにすべきだと、口々に声を荒げて反対する幕僚たち。
「包囲は必ず欠く、と言います。前もって逃げ道を用意しておけば、自分たちが不利だと判断したら、その用意した方向へと勝手に逃げてくれます。その方が楽でしょう?」
なおも、憎き貴族たちを皆殺しにせよと主張する幕僚たち。その主張を否定し、その理由を丁寧に説明していく。
「降伏してきた相手を、もし皆殺しにしてしまうと、相手は降伏しても無駄だと思うようになり、倒れるその瞬間まで死に物狂いで戦うようになるでしょう。そうなれば、こちらの被害も甚大になります。最期まで頑強に抵抗される方が、はるかに困るのです」
ここまでの説明で、ようやくほとんどの幕僚たちが納得してくれたようだ。
そうすると、ある幕僚から感嘆の声が上がる。
「ここまでに教えていただいた軍を運用するための様々な知識は、正に英知ですね」
別の幕僚からも、賞賛を受ける。
「さすがは、ガイン自由都市を長らく発展させ続けてきた、ヒデオ将軍の英知ですね」
これらの用兵の知識を活用してくれた各地域の方面軍も、私が直接指揮する主力軍も、連戦連勝を重ねることになる。
その後にこの功績を称えられるようになり、私は「名軍師」という、大変名誉な二つ名をいただくことになるのであった。