先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第226話 エドの横顔
俺の名前はエド。
王国西部にあるスルト村で、代々、畑を耕しているどこにでもいる農民だ。
今、この村の大人たちは、集会場になっている村長の家の前の広場に集まっていて、みんな力なく項垂れながら地べたに座り込んでいる。
何をしているのかと言えば、今後の対応とやらを話し合うのだとか。
はっ。くっだらねぇ。
俺は村長の方へと顔を向け、吐き捨てるようにして事実を突きつける。
「対策っつってもよぅ。もう、どうにもなんねぇだろうよ」
村長は青い顔をしながら、それでも話し合いを続けようと発言する。
「だが、何もしないと、ワシらはこのまま飢え死にするしかないのじゃ……」
俺はイラついてしまい、つい、バンッと目の前の地面を叩く。だが、一つしかない村の出入り口に常駐している騎士様に聞こえないように、声は小さめだ。
「そりゃ、俺たちのせいじゃねぇだろうが。あのクソ忌々しいお貴族様たちが、税として無茶な量の麦を持って行ったんだぜ? もし、これからの冬を越せるだけの食料が手に入ったとしても、だ。さらに税として取り立てられる未来しか見えねぇよ」
広場のあちらこちらから、そうだ、そうだという声が上がる。だが、みんなの顔色は一様に悪い。
「それに、あの賦役は何だよ? 何で、俺たちを閉じ込めるための壁を、俺たち自身の手で作らなきゃならねぇんだよ……」
村が納めている税が減っていったのは、こんな村での先の見えない生活に嫌気がさしてしまい、平民の楽園と呼ばれているガイン自由都市へと流れていったヤツらが多くなったからだ。
でも、それは、お貴族様たちが俺たちのことを、一切、考慮してくれていないからこそだろう?
それなのに、あいつらは、自分たちだけは贅沢を続けるために、俺たちの食い扶持まで税として取り立てていきやがった。
それだけじゃねぇ。
俺たちが逃げ出してしまわないようにと、村の周りに壁を作って囲い込みやがった。それも、俺たちを働かせて作らせていて、自分たちは後ろで剣を持って脅していただけだ。
「こうなったら、腹をくくるしかないんじゃねぇか?」
俺は、今、少しギラついた目をしているだろう。その自覚はある。
その状態で、ゆっくりと周囲のみんなを見渡す。
「腹をくくるとは?」
俺の左隣に座り込んでいる、いや、これはへたり込んでいるって言った方が近いな。とにかく、そんな状態のガイが、やる気のなさそうに反応する。
俺はそちらに顔を向け、これからのことについて口にする。
「どのみち、このままじゃ飢え死に確定だ。だったら、最期くらいは、腹いっぱいにお貴族様のウマいメシを食ってみたくはないか?」
「どういうことだ?」
俺はニヤリと笑う。
こんな状況だからこそ、笑って死んでやろうと思う。
「どうせ死ぬしかないのなら……、だ。一度くらいは、お貴族様を殴り飛ばしてみないか? ってー話だよ」
村長の顔色がさらに悪くなる。
「そ、そんなことをしてしまえば、ワシらは皆殺しにされてしまうぞっ……」
俺はそんな村長を睨みつけながら、吐き捨てる。
「どっちにしろ、このままなら、みんなで仲良く飢え死にするだけだろう? 遅いか早いかの違いでしかねぇよ」
俺はもう一度、辺りをゆっくりと見渡す。
それまで俯き加減なやつらばかりだったのが、ぽつり、ぽつりと顔を上げ始めていた。
隣のガイが同意してきた。
「そうだな……。どうせ死ぬのなら、一度くらいは、お貴族様の顔を思いっきり蹴とばしてからにしてぇな」
やがて、頷きあっている村民が増えていく。
そんな雰囲気の中、村長の顔は土気色になっていて、これでも、なお、思いとどまるように言ってくる。
「ま、待て。早まるでない。もし、それで反乱がうまくいったとしてもじゃ。その次は国王の騎士団がやってきて、ワシらは踏みつぶされることになるのじゃ……」
「はっ。だから、どうだってんだ? 飢え死にするか、切り殺されるかなら、いっそ、一息に死ねる方が楽じゃねぇか? それに……、な」
俺はここでもう一度ニヤリと笑う。おそらく、俺の顔は、今、ものすごく凶悪なものになっているだろう。かまやしない。
いいことを思いついた。
「ここの領主さえ殺してしまえば、後は、食い物や金目の物を奪ってからガイン自由都市へ逃げ込めばいいんじゃねぇか? バラバラに逃げれば、誰か一人くらいは逃げおおせるだろうよ」
ごくわずかではあるが、ここから生き残れる可能性がある。
俺が、そう、口にすると、はす向かいに座っていたカラム婆さんが、はっとした顔になって口を開く。
「そうだよ。あそこには私の息子のトールもいるはずだ。もう何年も前になるけども、息子から送られてきた手紙によれば、あそこじゃあ、流れてきた平民を手厚く保護してくれるそうじゃないか」
ちなみに、カラム婆さんは字が読めない。ま、こんな村じゃあ珍しくもないが。
そして、当然、その息子のトールも読み書きなんてできなかったはずだ。
それなのに届いた手紙を、輸送してくれた行商人がサービスで読み上げてくれたんだが、なんと、その手紙はトールの手書きだった。
その内容によれば、あそこじゃあ、無学な平民にも読み書きと計算を無料で教えてくれるらしい。
それだけでも、平民の楽園で間違いないだろう。
落ち込んでいたみんなの目にも、火が灯ったように見える。
「そうだな……。俺たちが一人でも生き残ろうと思ったら、その手しかないだろう。俺は乗ったぜ!!」
ガイが勢いよく立ち上がる。
もう、入り口のクソ騎士様に聞かれても気にしないのだろう。結構な大声で叫んでから立ち上がっていた。
そして、次々に立ち上がっていくみんな。
方向性は決まった。
今日、俺たちは武器を手に取る。
明日、生き残るために。