先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第224話 発火前夜
それから、またしばらくの時が経過した頃。
五十四歳になっていたヨシツネは引退を決意し、三十一歳になっていたユキムラへと、領主の座を引き継いでいた。
この時のヨシツネは、以下の様に言ってユキムラを激励していた。
「近頃、この国には不穏な空気が漂っている。大変な時期に差し掛かっているであろうこの状況で、まだ若いお前に領主を引き継ぐのは、少し不安でもある。しかし、これから先の難局には体力も必要になってくると判断し、私は引退を決意した。私も大おじい様も全力でサポートするので、困ったらいつでも頼って欲しい」
事実、この頃になると、平民たちの不満がかなり増大していた。
というのも、平民の傭兵たちに取り締まりを任せていたのではらちが明かないとようやく気付いたようで、貴族の軍隊である騎士団の動員を始める領主が増えてきていたのだ。
そのため、領地への出入りや焚書のチェックがかなり厳しく行われるようになり、それに比例して平民たちの不満が激増している状況になっている
領主に就任したばかりのユキムラは、この難題に対処すべく、私とヨシツネを伴った状態で会議を始めた。
その席で、官僚の一人が以下の様に報告を開始していた。
「このように、平民の不満が各地で増大を続けており、最早、いつ反乱が勃発してもおかしくない状態に陥っています」
ユキムラは、ここで私の方へと顔を向け、意見を求め始める。
「大おじい様、何か具体的な対策はありますか?」
私は顎に手を当てて少し考えを巡らせてから、静かに返答する。
「そうですね……。幸いにして、第三街壁の建設も間に合いましたので、防御に関してはほぼ完璧と言えるでしょう。後は各種の備蓄を今まで以上に進めることですかね。それと、私の方で何か新しい攻撃準備ができないか、持ち帰って考えておきましょう」
ここで、官僚の一人が手を上げて発言を求め、それをユキムラが許可すると、思い切った提案を始めてきた。
「あの……。今は、もう、貴族の権威はかなり低下してしまっています。ここで私たちが防御を固めるのではなく、積極的に打って出てはいかがでしょうか? 少なくとも、平民たちの支持は、間違いなく得られると思われます」
その意見に対し、ユキムラとヨシツネは顔を私の方に向け、目をじっと見つめてきている。
あの計画を、ここで話してしまってもいいのかという確認の意味だとすぐに分かったので、私は黙って頷きを返し、許可を出す。
ユキムラは顎の下で手を組み、正面に向き直ってから、ゆっくりと私の野望を語り始める。
「これは、この場だけの話にして、他言無用でお願いします。実は、ガイン家の領主にだけ語り継がれている、大おじい様の壮大な計画があるのです」
そう言って、しばらく辺りを見渡すユキムラ。
そして、一人一人、全員の表情を確認し、不用意に秘密を漏らすものがいないであろうことを十分に確認してから、顎の下で組んでいた手をほどき、ゆっくりと説明を始める。
「大おじい様は、この国から王侯貴族たちを駆逐し、平民だけの国、キョウワ国を作ろうと、ずっと努力を続けてこられたのです」
会議場から大きなどよめきが起こった。
領主のすぐ側に陣取っている高級官僚の一人が、みんなを代表してそれについての質問を始める。
「そのようなことが、実際に可能なのですか?」
ユキムラが頷き、肯定する。
「なにせ、百六十年以上かけて計画されていたそうですからね。準備は万端でしょう」
私は、ここでユキムラの話を引き継ぎ、その内容を初めて白日の下にさらす。
「貴族たちを打倒しようとすると、まずはその強力な権力基盤を崩す必要がありました。そのために、貴族たちの力の源泉となっていた彼らが独占する知識を、平民たちに分け与えることから始めたのです。そのための学校制度だったのですよ。そして、今現在、平民たちの知識レベルは、貴族たちをはるかに凌駕しています。そろそろ、頃合いでしょう」
そこまで考えて学校を作っていたのか、とか、そんなにも以前から準備を進めていたのかなど、いろいろな驚きの声が周囲から上がっている。
ここで、また別の官僚の一人が、私に確認を始めた。
「では、初代様が私たちの王様になっていただけるのですか?」
期待の眼差しで質問をしている彼には悪いのだが、それには同意できない。
「いえ。それでは王様が交代するだけで、駆逐することにはなりません。一応、私もこの国の貴族の端くれですからね。ですから、能力のある平民の誰かに、この国を導いてもらいます。そのためには、平民自身の手で革命を起こしてもらう必要があるのです。ですから、こちらからは行動しません。もちろん、革命のための援助は惜しみませんが」
私のこれらの発言により、ガイン自由都市のこれからの大まかな行動の方向性が決定された。
その後の会議では、情報収集を強化するなどのより細かい部分の議題が協議されていき、いよいよ、私の野望の完遂に向けての大勝負の時が始まったのであった。