先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第223話 ギンコウ
それから、また、年を二つほど重ねた頃。
ニーナは第一子となる男の子を出産していた。銀髪に青い瞳のおとなしそうな赤ちゃんだ。
この子は後に、ロランと名付けられた。
甥っ子のヨシヒロを見ていたら自分の子供が欲しくなったらしく、以下の様に言って夫のロレインの尻を叩いている様子が、度々、見られるようになっていた。
「あなた、もっと頑張ってください」
その結果、ロレインが少しやつれたように見えたのは、今となってはいい笑い話になっている。
また、この頃になると、ヒデオジドウシャも無事に営業を開始していた。
工房長兼開発主任に就任した、かつての研究室の担当キョウジュに、私はガソリンエンジンの原理などを説明し、開発を任せた。
偉大な発見をしたオットーに敬意を払い、「オットーえんじん」として説明しているため、やがては「オットージドウシャ」が開発されることだろう。
ただ、これから先も、私に投資話が舞い込んできたらどうしようかと、雑談交じりにヨシツネに相談してみたところ、意外な回答を得ることになった。
「大おじい様、このままでは肩書が増え続けることになりますよ? ですから、そのギンコウとやらを作ればいいのです」
「ですが、私にはギンコウ業務の知識がないのです」
「そこは、ほら、大おじい様お得意の研究をすればいいのですよ。いつものように、ダイガクを活用してみてはいかがですか?」
なるほどなと思った私は、早速、ダイガクで人材を募り、ギンコウの立ち上げのための研究室を用意した。
名乗りを上げたのは、リタさんという女性キョウジュだった。彼女の実家は大きな商会で、お金の運用に関しての基礎知識があったのが理由のようだ。
「お金を増やすための研究だなんて、まさに私のためにあるようなものです」
そのように言ってくれていて、積極的に研究活動を開始してくれていた。
とりあえずの研究テーマとして、企業に対する大型の投融資、原油や穀物などの先物相場取引などを考えているらしい。
これらは、小規模なものであれば、既に金貸しや行商人の間で行われており、それを大規模化させることを考えているらしい。
「ただ、運用するための元手をどうするかなんですよね……」
そのように、リタさんから相談を受けていた。
「それは、お金を預かる預金制度を作ればいいのですよ」
私は素人知識なりに、簡潔に説明を試みる。
「一般のお客さんからお金を預かり、運用するのです。そして、利益の一部を利子という形で還元すれば、お金を預ける人も増えるかと思います」
「なるほど、なるほど。お金を預けておけば勝手に増えるわけですから、確かに需要はありそうですね」
「単純な預金の他に、元金を保証しない代わりに高利率を売りにしてお金を預かり、プロが少しリスキーなものを運用して、還元する商品もあっていいでしょう」
こうして、私が与えた単純なヒントだけを頼りに、どんどんと彼女は研究を進めていった。
そんなある日。
リタさんから、一部商品は元金が保証されないなどの説明責任を明確化した方がいいとの指摘を受けた。
そこで、私は領主のヨシツネに相談し、官僚を交えてギンコウの関連条例の協議も開始したのであった。
これは余談になってくるのだが、そう言えば、紙幣の発端は金貨と交換できる銀行の引換券であったと聞いたことがある。
大口取引の際、じゃらじゃらと大量の金貨をやり取りするのではなく、引換券で代用したのが始まりなのだとか。
なので、このままギンコウには発展してもらって、そのまま紙幣経済へと移行して欲しいものだと考えている。
ちなみに、今のお金は信用で成り立っている。信用だけで、と言い換えてもいい。
つまり、一万円札は一万円分の商品と交換できるとみんなが信用しているから成り立っているのである。
ここに至るまでには、いろいろと歴史上の積み重ねが必要だった。
最初の金貨との引換券は、この信用を担保するためのものとして利用されている。
やがて経済規模が大きくなり、流通する紙幣の量が増大すると、金本位制と呼ばれる形態に移行した。
これは、国家が金を保有し、その引換券として信用を担保して紙幣を発行する仕組みになる。
私が無理にこの世界での紙幣にそれらの段階を経るように提案していかなくても、時間さえかければ、同じような発展の道をたどるだろうと考えている。
そういう意味でも、リタさんには先駆者として研究を頑張ってもらい、ギンコウを発展させていって欲しいと思う。
これは少し先の話になる。
リタさんは、後に自分のギンコウを立ち上げ、そこの頭取に就任した。彼女のギンコウは、やがてこの国で最大の規模を誇るようになっていく。
リタさんの辣腕ぶりは次第に広く知られるようになり、彼女は「金融業界の巨人」という異名で呼ばれるようになるのであった。