先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第179話 新たな故事成語
ゾウキンバクダンが完成を迎えて、しばらくの時が経過した頃。
今日は領主のリョウマをはじめとした関係者を集めて、ガイン自由都市の郊外に作った野外演習場で、新兵器のお披露目も兼ねた実弾訓練を行っていた。
兵士の諸君にはゾウキンバクダンの他に、ヒデオ工房特製の可能な限り小型化した火種の魔道具を持たせている。
兵士たちはそれを使い、導火線に次々と着火して的に投げつけている。ちなみに、的として用意されているのは、えあがんの実弾訓練用の鉄製の鎧である。
一定範囲内のそれらが、まとめて吹き飛ばされていく。そのあまりの威力に、関係者各位はみんな引き気味になっている。
みんなを代表して、リョウマが感想を述べる。
「これは、また、恐ろしい兵器を作ってしまいましたね……」
しかし、私にとっては、この現状は非常に不満の残るものであった。
「いえ、全然ダメですね」
私のその返答がとても予想外だったようで、続けてリョウマが質問を開始する。
「お、大おじい様は、いったい、何を目指して開発をしているのですか?」
私は少し遠くを眺めながら、目指すべきものについて語る。
「『榴弾砲』ですね」
榴弾砲が完成したら、その次は自走砲や戦車の開発も目指してみたい。
今なら制空権が取り放題なので、何らかの方法で空爆をするための兵器も、できれば開発してみたい。
私が頭の中で目指すべきものを指折り数えていると、リョウマが質問を重ねてきた。
「それは、どのようなものですか?」
「まず、もっとバクダンの威力を上げます。そして、それを『砲弾』……、大型の弾丸ですね。その形に詰め込み、えあがんを巨大化させたもので発射します」
私はその様子を少し想像してみる。
愚かすぎる貴族どもがまとめて吹き飛んでいく様子は、うっとりとするほど気持ちのいいものだった。
私は少しだけ上機嫌になりながら、続きの説明を行う。
「この『砲弾』は、着地した瞬間に大爆発を起こすようにしておきます。『砲弾』は鉄製が望ましいのですが、重すぎて無理なようなら、内部に細かい金属片を多数入れておくと効果的です」
リョウマの頬が、ヒクッと引きつったのが分かった。
「どのように効果的なのでしょう?」
「爆風では効果が薄い範囲であっても、飛び散った金属片の一つ一つが小さな刃物のようになって雨あられと敵を切り裂きますので、広い範囲の敵を効率的に滅殺できます」
リョウマの頬を、たらーっと冷や汗が伝い落ちる。
「そ、そんなものを、どのように使うつもりなのですか?」
「この『榴弾砲』を多数揃えて、『砲兵』部隊を作ります。そして、一斉射撃を継続して行うことで、敵陣を一瞬で更地にできるでしょう」
リョウマはここまでの説明を聞くと、ガバッと音がしそうなほどの勢いでこちらに振り向き、私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶり始めた。
「大おじい様! しっかりしてください! 明らかにやりすぎですよ!!」
私は頭を揺さぶられながら、ギロリと目線でリョウマを威圧する。
「なぜですか? 人類を衰退させる方向にしか役に立たない連中など、まとめて消し飛ばした方が、よほど世の中のためになるでしょう」
周囲から、ゴクリと生唾を飲み込む音が、複数、聞こえてくる。
ここで、リョウマは私の目を覚まさせる、決定的な言葉を放つ。
「その敵軍は、大部分が平民で構成されていますよ! 大おじい様は、王侯貴族の命令に逆らえなかったというだけで、それらの平民ごと吹き飛ばしてしまって構わないと、そう、仰るのですか!!」
「あ……」
一瞬で我に返る。
自分のあまりにもな暴走っぷりに、私はここで初めて気づき、思わず視線を彷徨わせながら続きを語る。
「わ、私もちょっと、熱くなりすぎていたようですね……」
「では、リュウダンホウとやらの開発は?」
「もちろん、完全に計画を破棄します。ええ、ええ。これ以上の武器開発の全てを、白紙に戻します」
この場にいる全員から、安堵の溜め息が零れるのが聞こえてきた。
それから、またしばらくの時が流れ去った頃。
この一件が噂となって広まってしまい、「初代様の前で本を焼く」という、新しい故事成語が誕生してしまった。
前世での「逆鱗に触れる」と、同じような意味合いで使われている。
また、この噂が広まる過程で、開発しようとしていた武器の内容がだんだんと大げさになって伝わってしまい、次のように広く言われるようになっていった。
「初代様は怒りのあまり、王国ごと一瞬で吹き飛ばしてしまうような新兵器を開発しようとしていたらしいぞ? ご子孫の領主様が止めてくださらなければ、実現可能な開発目標まで、既に準備していたそうだ」
その結果、この新しい故事成語は、「普段はおとなしい人を本気で怒らせると、周囲を巻き込んで破滅する」という意味でも使われるようになるのであった。
ちなみに、厳密な意味での故事成語という言葉は、中国の古典が由来の教訓という内容になるのではあるが、この場合は翻訳の都合で、昔あった事柄による教訓という意味で使っている。