先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第180話 イサミのお嫁さん
私の赤面ものの大暴走劇が終幕して、季節がやっと一巡した頃。
あのことが話題となって出るたびに、私は羞恥心からいつも身もだえをしていたのだが、ようやく噂も沈静化し始めてくれていた。
そして、この頃、イサミが結婚式を挙げていた。
イサミはその勇ましそうな名前の響きにも関わらず、読書をこよなく愛する物静かな好青年に成長していた。
「私が本好きになったのは、間違いなく大おじい様の影響ですよ?」
そんな、とても嬉しいことをいつも口にしてくれている。
(やはり、この子も、天才な上に可愛さでもこれほどですか)
はい。やっぱり私が大じじバカです。間違いありません。
イサミはまだ小さな子供だった頃から、私のところへと頻繁に話をせがみに来てくれていたため、ついつい可愛がりすぎてしまい、本をたくさん買い与えていた。
そのような状況だったため、イサミのこの発言は事実だろうなと、私も認識している。
私は本のジャンルを問わずに読むのだが、この点でもイサミは影響を受けたようで、どんな本でも気になると買い込んで読みふけっていた。
ちなみに、このガイン自由都市には、私の名前を冠した図書館が出来上がってしまっている。
平民の知識レベルを上げようとすれば、図書館は必須になるだろうと考えた私が主導して設立したのだが、油断していると、いつの間にか私の名前の図書館になってしまっていた。
この図書館、正式名称を「ガイン公立ヒデオ図書館」というのだが、みんな短縮して「ヒデオ図書館」と呼んでいる。
「恥ずかしいので別の名前でお願いします」
私は何度もお願いしたのだが、周囲からは次のように言われてしまった。
「記念すべき最初の平民のための図書館に、本の父の名前を使わないなんてことは考えられません」
私はそんな周囲を納得させるだけの代案を提示することができず、そのまま押し切られてしまっていた。
イサミはこのヒデオ図書館がお気に入りの場所になっていて、暇さえあれば入り浸るようになっていた。
イサミはその読書量に比例するように、非常に豊富な知識量を誇るようになったのだが、その分、体を動かすのは苦手な優男でもあった。
しかし、それがかえって貴族っぽくていいと、女性からとてもモテていたようだ。
そんなイサミが生涯の伴侶として選んだのは、図書館でたびたび合っていた読書仲間の女性だった。
リリアさんという人で、淡い色合いの金髪に青い瞳で、丸い顔が愛嬌たっぷりでどこか母性を感じさせる、優しい雰囲気の知性溢れる女性である。
イサミと正式にお付き合いを始めるようになると、それに嫉妬した一部の女性陣からは、以下のような陰口をたたかれるようになっていた。
「華やかさの欠片もないので、お貴族様の跡取り息子の恋人には相応しくない」
しかし、私はどちらかと言えば、華やかな美女よりも、少し控えめな美人の方がより安心できる気がするので、生涯を共にするのならそちらだろうと思っていた。
そのため、二人が結婚を視野に入れ始めたと聞いた時には、さすが私の可愛いイサミは女性を見る目も確かだと、周囲に自慢したほどである。
そして、そのまま昨年になると正式に婚約を交わしていて、最近、無事に夫婦となっていた。
私とクリスさんのように人前でイチャつくようなことはなかったのだが、いかにも自然体という雰囲気で寄り添いあう二人は、やがて領民たちからも、理想の夫婦としてもてはやされるようになっていくのであった。