先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第178話 ゾウキンバクダン
セレスさんが積極的に手伝ってくれたため、わずか一か月という短期間で、硝酸が安定的に生産できるようになっていた。
そのため、次の段階へと進めようと、私はヒデオ工房の工房長の部屋で、一人、火薬を生産するための思索にふけっていた。
「一番いいのは、『TNT火薬』を作ることなのですが……」
TNT火薬を作るためには、ペンキの溶剤として有名なトルエンが必要になってくる。しかし、その安定的な入手方法を私は知らない。
TNT火薬とよく似た構造式で、やはり火薬として使える物質としてピクリン酸がある。これには、消毒液として有名なフェノールが必要になって来るのだが、これも、やはり、入手方法が不明だ。
ニトログリセリンも同様の理由で作れない。
しばらくうなりながら考えを進める。そして、額にいつの間にか浮いていた汗を拭おうとして、なにげなく取り出したハンカチを見た時、閃きを得た。
「そうだ、『ニトロセルロース』を作りましょう」
ニトロセルロースは主に弾薬として使われる火薬で、無煙火薬とも呼ばれる。
そして、この化学物質は、植物性の繊維があれば作れる。つまり、極端な話、木綿や麻の布でできた雑巾があれば、爆弾が作れるのである。
私は、早速、ダイガクへと赴き、ニトロセルロースの作成を開始した。
しかし、思うように反応が進まず、しばらく行き詰まりを見せていた。その突破口は、やはり、共同研究者のセレスさんからもたらされた。
「何かの溶剤に混ぜてから、反応させてみてはいかがですか?」
それを聞いた私は、セレスさんになじみ深い物質として、硫酸を加えて反応させてみた。
そうすると、安定して生産できるようになったのである。
こうして出来上がったニトロセルロースを使って、最初に作ったのは導火線である。ニトロセルロースと通常の繊維を混ぜて作成した。これがなければ、安全に実験が行えないためである。
そして、爆破実験は、私が直接行うようにした。
鉄製の壁の後ろで光盾の魔法を展開して安全を確保し、火薬の量などを調整していった。
初期のものは質も悪かった模様で、不発弾になるものも多かった。そのため、不発になるたびに火球の魔法を飛ばして、爆破処理をする必要が生じていた。
また、保管場所などで暴発する危険性もあったため、可能な限り少量ずつ生産し、安定させるための基礎研究がしらばくの間は必要であった。
こうして完成した新兵器は、私が何も考えずに「ゾウキンバクダン」と命名した。
ゾウキンバクダンは、当初はダイナマイトのような筒形をしていたのだが、ガイン自由都市軍の兵士たちに投げてもらって実験した結果、遠くに投げるには形が悪いという指摘を受けていた。
そのため、今では手榴弾を模した形状に変更している。
こうして、セレスさんの多大な貢献により急ピッチで進んだ開発は、焚書の報告を受けてからわずか一年ほどで終了した。