先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第177話 共同研究
セレスさんにせがまれたため、私は、早速、硝酸の作成方法についての説明を開始した。
「今回、使用するのは、オストワルト法という製造方法になります」
オストワルト法は、高校の化学で学習する。この手法は硝酸の大量生産にとても適している手法であり、爆薬の大量生産を可能にするものになる。
「まず、主原料ですが、あんもにあですね」
アンモニアと聞いて彼女もピンときたようで、確認のための質問をする。
「というと、ハーバー・ボッシュ法のやつですよね?」
私は頷きながら肯定する。
「ええ、そうです。さすがに、優秀ですね。他の研究室の研究内容まで、しっかりと把握しているのですから」
そして、彼女は、期待を裏切らないその優秀な頭脳で、ある指摘をしてきた。
「情報の秘匿が必要ということは、原料から作成するのでしょうか?」
私はそれに大きく頷いて肯定する。
「話が早くて助かります。あんもにあの作成で何か分からないことがありましたら、私がその研究室のキョウジュに質問しますので、私に質問するようにしてください」
情報の秘匿の一環として、私を通して質問するようにお願いしてみると、セレスさんは軽く頷いて同意してくれた。
「了解しました。では、どのようにして、ショウサンを作成するのでしょうか?」
私はその質問に対し、まずはざっくりとした内容を先に語る。
「バケガク反応はとても単純になります。あんもにあと空気の混合気体を用意して、あんもにあをサンカさせてから、水と反応させるだけになりますね」
彼女はその単純な化学反応に、少し驚いた様子になって質問を重ねる。
「そんなに簡単に作れるのですか?」
「実際には、これだけではあまり反応が進みません。そこで、ショクバイを用意します」
「そのショクバイは何でしょうか?」
私は彼女の目を見つめながら、簡潔に答えを告げる。
「偽銀ですね」
偽銀というのは、この世界でのプラチナのことである。銀よりえらく重たい偽物として扱われている。
私がこれをプラチナであると断定できたのは、その重さの比率からである。正確な比重までは覚えていなかったのだが、銀の2倍程度の重さになるということだけは覚えていたのだ。
私は忘れてしまっていたのだが、銀の比重は10.5、プラチナは21.5になる。つまり、2倍と少し重たい計算になる。
この偽銀は、とある研究室で面白い研究テーマとしても扱われている。そこでは、銀と偽銀と魔法銀の特性を比較していて、最終的には魔法銀の合成を目指している。
この研究テーマはこの世界の独特なものになってくるため、私は非常に興味をそそられ、学長時代に手厚く予算を配分して奨励していた。
閑話休題。
セレスさんに化学反応式などを一通り説明し終え、早速、研究を開始することになった。
「名誉学長、研究を開始する前に、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。何でも聞いてください」
「名誉学長は、欲しいものもその製法も明確に分かっておられるのに、私に手伝わせる理由は何ですか?」
私は彼女の方に顔を向け、それに正直に答える。
「私一人でも作れなくはないでしょう。ですが、今回はスピードを重視したいのです。私だけであれば、見落としや思い込みから、回り道が発生する可能性があります。ですので、優秀なあなたの意見を伺って、共同研究にしたかったのです」
セレスさんは、そんな私の説明に納得してくれたようすで、わかりましたと返答してくれた。
ただ、私の研究室で実験を続けていたのでは、情報の秘匿に問題があるのではないかという指摘も受けた。
そのため、私はまたリョウマにニッコリとお願いして、予算を分捕ってきた。
その予算を使い、ダイガクの少し奥まった敷地に、機密研究専用の研究棟の増設工事が始まったのであった。