先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第176話 協力要請
新条例の制定依頼が無事に終了した頃には、すっかりと暗くなってしまっていた。
私はすぐにでもダイガクに取って返したかったのだが、次の予定は、とある人物に協力を要請することであった。
そのため、さすがにもう今日は諦めて、翌日になるのを待つことにした。
そして、次の日。
私は朝一番に、ある女性キョウジュの研究室を訪ねていた。
そのキョウジュはセレスさんという人で、黒い瞳で黒髪をショートにした、どこか和風な雰囲気の漂う女性だ。
左目の付近にある泣き黒子がセクシーな、男性にとても人気の高い美女でもある。
しかし、私にとって必要なのは、その美貌ではない。その優秀な頭脳を借り受けたいのだ。
朝早くに部屋を訪ねた私を見ると、セレスさんは少し驚いた様子になって質問を投げかける。
「名誉学長、こんなに早くからどうされたのですか?」
私はそんなセレスさんに対し、朝早くの訪問を軽く詫びてからお願いの内容を切り出す。
「これからお話する内容は、ガイン自由都市の安全保障にかかわるものになります。ですので、申し訳ありませんが、お時間のある時に私の研究室を訪ねて来てはいただけないでしょうか?」
私がこのようにお願いすると、彼女はこれからでも大丈夫ですと了承してくれて、そのまま私の研究室まで同行してくれた。
部屋に入った私は厳重に鍵をかけて確認し、応接用のソファーに向かい合って座ると、早速、本題に入った。
「セレスさん、あなたの研究成果を拝見しました。エンサンとリュウサンの比較研究は、とても興味深いものでした。そこで、優秀なあなたにお願いしたいことがあるのです。しかし、その前に質問させてください」
ここで私は一息入れ、じっとセレスさんの目を見ながら確認する。
「エンサンともリュウサンとも違う、第三の強酸に興味はありませんか?」
セレスさんは、私のこの言葉を聞くなり、ガバッと身を乗り出してきて、少し興奮した様子で早口になりながら語り始めた。
「そ、そんなものがあるのですか!! もちろん、興味ありまくりです!」
私はその勢いに押されてしまい、若干、のけぞり気味になりながら、デメリットについての説明を加える。
「ただ、この『硝酸』は、非常に強力な武器の主原料になるのですよ。ですから、この『硝酸』の作成方法などを含めた全ての情報は、これから施行される軍事機密保護条例の適用対象になってしまいます」
ここで、一旦、彼女の様子を伺ってみると、どこがデメリットなのか良く分かっていない様子だった。そのため、私はさらに説明を加える。
「そのため、『硝酸』の関連情報は、全て秘匿していただくことになりますので、私以外には内容を発表できなくなります。それでも作ってみたいですか?」
彼女は顎に手を当てて考え始めた。メリットとデメリットを天秤にかけている模様だ。
「うーん……。ちなみに、その武器はどのくらいの威力になるのですか?」
私は少し上を向きながら考えを巡らせ、できるだけ分かりやすい例えを使いながら説明を行う。
「そうですね……。上級範囲魔法の火柱の魔法以上の威力のものが、誰にでも扱えるようになります」
彼女は目を見開き、驚いた様子で確認を取る。
「そ、そんなにですか?」
私はゆっくりと頷きを返し、肯定する。
それを見た彼女は、少しだけ考える時間を要したのだが、決断するまでは短かった。
「分かりました。それは、確かに、秘匿する必要がありますね……」
そして、彼女は真剣な顔つきになり、私の目をじっと見つめながら、その心の内を語ってくれた。
「私は名誉が欲しくてキョウジュをやっているわけではありません。ごくごく一部で構わないので、この世の真理を知りたいだけです。ですので、名誉学長の条件を全て飲んででも、まだ見ぬ強酸を扱ってみたいです」
私はその発言に、彼女の学者としての矜持が感じられて、感動を覚えながら感謝を述べる。
「おお……。ありがとうございます。では、その作成方法について説明を行いたいのですが、日を改めた方が良さそうですね」
しかし、私のこの提案に対し、彼女はいかにもワクワクしていそうな、好奇心に溢れた目で即答した。
「いえ、今日で構いません。というか、今すぐにお願いします!!」
こうして、私は、硝酸の作成のための協力者を得たのであった。