先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第168話 古代の魔道具
それから、年を二つほど重ねた頃。
あすふぁるとの道路の施設もかなり進んでいて、物流が活性化したことにより経済も活性化し、ガイン自由都市はさらなる好景気に沸き立っていた。
原油の産地であるセネブ村の開発も進んでいて、今では正式な町になっていた。
住民のために自領の開発を行う貴族が他にもいたのかと、私は感心しきりだったのだが、実際には、自分が上位貴族に陞爵したかっただけの模様だ。
(まあ、動機が何であれ、平民のためになることであれば歓迎ですね)
ガイン自由都市の発展に伴い、周辺地域との物流も活性化したため、一大経済圏としても認識されるようになっていた。
そんなある日。
領主館の執務室で領主業務を手伝っていると、官僚の一人が慌てた様子で飛び込んできた。
「たたたた、大変です! りょ、領主様と初代様に、お、お、お客様です!!」
「どうしたのです? そんなに慌てて。まずはちょっと、落ち着いてください」
私はそう言うと、備え付けてあるグラスに水を注ぎ、彼に手渡した。それを一気に飲み干した彼は、少し落ち着いた様子で語り始めた。
「領主様と初代様にお客様です」
「今日の予定に来客はなかったはずですが……」
私は領主のリョウマと顔を見合わせてから、少し怪訝な表情になりながらそう返答すると、彼はその理由を語り始めた。
「古代魔法文明時代の魔道具を発見したので、ガイン家に買い取ってもらいたいそうです」
そうすると、リョウマはガタリと立ち上がり、思わずといった様子で彼を叱責してしまう。
「なぜそれを先に言わないのですか! 大おじい様、行きましょう!!」
そして、応接室に二人して少し速足になりながら向かうと、そこには黒髪で青い瞳の落ち着いた雰囲気の男性が、静かに腰かけて待っていた。
「お待たせして申し訳ありません。私が領主のリョウマです」
「私がこの領地の相談役のヒデオです」
私たちがそうやって自己紹介を始めると、彼も立ち上がって挨拶を始めた。
「いえ、私も突然押しかけましたので、お気になさらず。私が冒険者のケントです」
ファンタジーなラノベであれば、冒険者と言えば荒くれものというイメージが強い。
しかし、この世界での冒険者は古代魔法文明の遺跡を発掘する仕事であるため、ある程度の資産が必要になってくる。
要するにお金持ちであるため、冒険者はきちんとした教育を受けている場合が多い。
そのためだろう、ケントさんはどこか知的な雰囲気のある顔立ちをしていた。
そして、全員が席に着いたタイミングで、リョウマが本題を語り始めた。
「なんでも、ガイン家に買い取りを希望している古代の魔道具があるのだとか。しかし、当家では王家ほどの高値では買い取れませんよ?」
ケントさんは、分かっていますと言いながら、懐から小型の魔道具を取り出した。
その大きさなどの見た目から、後期古代魔法文明時代のものと思われるそれは、破損している部分が多かったのだが、ディスプレイらしきものとダイヤル式のつまみ、そして、いくつかのボタンが配置されているようだ。
(携帯ラジオか音楽プレイヤーといったところでしょうかね?)
私はそんな感想を抱いていた。
そんな中、ケントさんが静かに事情の説明を始めた。
「これを発見した時は私も大喜びでして、早速、王家に売りに行こうと思ったのですが、移動している最中に気づいたのです。これを王家に売ってしまうと、あの忌々しいお貴族様たちが、我ら平民を従えるための力になってしまうと。それだけは嫌だったのです」
領主のリョウマが、なるほどと言って頷きながら交渉を始める。
「予算の使い道は、事前にあらかた決まっているのです。ですので、領主といえどもすぐに自由に動かせる金額はそれほど多くはありません。ですから、一週間ほど時間をいただけませんか?」
ここで、私がその発言を引き継ぎ、もう少しフォローを入れる。
「その間の宿泊施設は、ガイン家で用意しましょう。いくばくかの遊興費もお渡ししますので、しばらくは観光でもしてもらって、待ってはいただけないでしょうか?」
そうすると、ケントさんも納得してくれた様子で、頷きながら了承してくれた。
「それで構いません。私も平民文化の中心地と言われるこの都市を、ゆっくりと観光してみたかったので」
そして、一週間後。
予定通りの時間に再会談が始まった。
「これが、当家が今用意できる精一杯です。ご確認ください」
リョウマが金額の書かれたワシを手渡した。
その内容を目で追ったケントさんは、少し驚いた様子になりながら確認を始める。
「思っていたよりもかなり多いのですが、大丈夫なのですか?」
リョウマが頷きながら返答する。
「ええ、各部署の予算を、少しずつ削ってかき集めました。ですので、現時点ではこれが限度になります。来年度の予算編成まで待っていただけるのであれば、もう少し用意できるのですが……」
ケントさんは一つ頷いてから返答を始める。
「いえ、これで十分です。その代わり、一つだけ条件を飲んでいただきたい」
ケントさんはそう言うと、私の方を見つめながらその条件を語る。
「この魔道具で得た知識を、私たち平民のために使うことを約束して欲しいのです」
私は大きく頷きを返し、約束を結ぶ。
「分かりました。では、こうしましょう。この魔道具で判明した内容を、私が本にまとめて一般販売します」
「それで構いません。期待していますよ? 魔道具の父にして、本の父さん?」
そう言って、ケントさんは笑顔になった。
私たち三人は、互いに右拳を握り込んでその背を軽くぶつけ合い、正式な挨拶を交わした。
その後、古代の魔道具と大金貨の入った袋を交換して、ここにその売買契約が結ばれた。
「さて、古代魔法文明の時代の魔法式が、いったいどのようなものなのか、興味が尽きませんね。これから、研究が忙しくなりそうです」
私はそのように呟き、その魔道具を私専用にと用意されているダイガクの研究室に持ち込み、早速、研究を開始したのであった。