先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第167話 浄水施設の研究
イサミとトシゾウが、そろって八歳になった頃。
上下水道の施設工事がようやく完成していた。着工してから実に二十四年の歳月を要した一大プロジェクトが、やっとのことで完了した。
「次は、安全な上水道のための浄水施設の研究を開始したいですね」
そのように考えた私は、早速、領主のリョウマに相談し、工事の完了で浮いた予算の一部を研究費としてダイガクに融通してもらった。
浄水場の機能を大まかに分けると、不純物の沈殿とろ過、そして消毒になる。
沈殿とろ過については、規模を大きくすれば現在の技術水準でも十分に可能だろう。
消毒については、日本の水道には塩素が使われていることが有名だ。しかし、実際には、塩素そのものではなく、次亜塩素酸ナトリウムという塩素の化合物が使われている。
そして、この次亜塩素酸ナトリウムは、食塩水の電気分解で作ることができる。
幸いにして既に発電所を作っているので、電力の問題はクリアしている。よって、ある程度の大量生産も問題ないだろう。
この化学物質の作り方を簡単に説明すると、以下のようになる。
食塩水を電気分解すると、陰極から水素が発生し、陽極から塩素が発生する。
発生した塩素は水溶液中のナトリウムイオンなどと反応し、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液が作れるのである。
ただ、問題になってくるのは、どの程度の濃度であれば、安全で殺菌作用の強いものが作れるのかが不明な点である。
毎日使用する飲料水にしたいので、ある程度、長期にわたっての研究を継続する必要があるだろう。
また、次亜塩素酸ナトリウムの研究は、いろいろと応用範囲が広い。
酸化剤としても使えるため、様々な物質の酸化反応に使える。そのため、新しい化学物質を合成することも可能になるだろう。
さらに、次亜塩素酸ナトリウムからは、比較的、容易に塩素が作成できる上に、それを使えば塩酸も作れるようになる。
塩酸は言わずと知れた強酸であるため、そこから研究を進めると、やがてはバッテリーも作れるようになる。
そして、バッテリーの研究を進めれば乾電池も作れるようになり、懐中電灯や壁掛け時計など、いろいろと応用が広がっていく。
「なかなかに夢が広がっていく研究ですが、いつも通り、焦らずに一歩ずつ確実に進めていきましょう」
私は決意も新たに、次第に浄水施設の研究に没頭していくのであった。