先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第166話 ダイガクの拡充
リョウマが領主に就任してから、一年ほどが経過した頃。
私は名誉学長として、ダイガクの運営委員会に参加していた。
ちなみに、私は適当なところで学長の地位を後進に譲っていた。
だが、何らかの形でダイガクの運営に携わって欲しいと強くお願いされたため、臨時講師扱いの名誉学長として就任している。
そして、今、議題になっているのは、加熱しすぎるようになった入試制度についてである。
会議の議長役になっているキョウジュが、ここまでの論点を述べる。
「入試が盛況なのはいいことなのでしょうが、ちょっと加熱しすぎています。そのため、いろいろとトラブルも増えるようになりました。この点について、何かご意見のある方はいませんか?」
私は手を上げて発言の許可を求め、議長の同意を得てから持論を述べる。
「何事もやりすぎは良くありません。ですので、この状態を緩和する意味でもダイガクを拡充し、受け入れる生徒数を増やすべきでしょうね」
ここで、別のキョウジュが意見を述べる。
「大筋ではそれでいいと思います。ですが、そのための予算の充てはあるのですか?」
私はそれに頷きを返し、続きを語る。
「それについては、私に任せて欲しいとしか言えませんね。次の領地運営会議での議題に上げますので、なんとかしましょう。ただ、そこにかけるためには、ある程度の見積もりが必要になります。ですので、拡充する範囲などを先に決めておきましょう」
私のこの発言がきっかけとなり、どの程度の拡充をするのかの議論に移っていった。
生徒数はどの程度増やすのか、それに伴い、教室の広さは足りるのか、などなどを議論していった。
私はここで職権を少しだけ乱用し、ずっと研究してみたかった学問の学科の新設も提案してみた。
魔法とは何かという基礎理論を研究するための、魔法工学部、基礎魔法学科を作る提案である。
多分に私の趣味が入っている提案だったのだが、これはこれで重要な研究だと他のキョウジュたちも納得してくれたようで、すんなりと新設が決まった。
「ただ、新しい学科ですから、具体的な研究内容はどうするのです? また、誰がその内容を教えますか?」
その質問に対し、私はずっと温めていた仮説を語る。
子供の頃に考えていたように、魔法とは、上位の次元から取り出したエネルギーではないだろうか。
ただ、その場合、魔法を使えば使うほど、この宇宙のエネルギー総量が増加し続けることになる。
ここから先は説明が難しいため、相対性理論に関するところは少しぼかしながら、私は説明を加えていった。
相対性理論によると、エネルギーと質量は本質的に同じものだということになる。
つまり、宇宙全体のエネルギーが増加すると、それに伴って質量も増加することになり、質量が増えれば重力も増していくことになる。
その結果、この宇宙はやがて内側に向けて潰れてしまうという予想が成り立つ。
この未来予想が本当に正しいのだろうかと考えた時、私はある閃きを得ていた。
ここより上位の次元、これを上位の宇宙とするのであれば、より下位の宇宙も存在するのではないだろうか。
そして、この宇宙で余剰となったエネルギーは、より下位の宇宙に向けて流れていくと考えれば辻褄が合う。
私は、これを、階段宇宙仮説と名付けている。
階段の上を水が順番に流れていくように、エネルギーがだんだんと下位の宇宙へと流れていく構造になっているのではないか、という仮説である。
そのような説明をしていくと、キョウジュたちは、なぜか、妙に納得したような表情になっていた。
そして、議長役のキョウジュが口を開く。
「これは、その基礎魔法学科のキョウジュは、名誉学長に兼任してもらう他にありませんね」
私が辺りを見渡してみると、他のキョウジュたちも頷いて同意を示している。
(ちょっと、熱く語りすぎましたかね……)
仕方がないので、私はキョウジュを兼任することを、渋々と認めざるを得なかった。
ただ、後進が育つまでとの条件だけは、なんとかもぎ取ることができた。
これ以上、私の仕事を増やさないためにも、後進の育成に力を入れようと、気合を入れなおした日となった。