先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第165話 リョウマの横顔
俺の名前はリョウマ。リョウマ・ウル・ガインだ。
つい先日、お父様のカズシゲから、このガイン自由都市の領主の座を引き継ぎ、六代目領主として就任したばかりだ。
俺の一風変わった名前は、俺たち一族のものが、いや、この国の全ての平民たちが尊敬してやまない、俺の大おじい様がつけてくださったものだ。
お父様の話によると、その時、大おじい様はこう仰っていたそうだ。
「リョウマというのは、ここからは遠い国で、魔物の王とも土地神様とも言われているリュウを、馬として乗りこなすほどの立派な人物になりますように、という意味です」
だが、俺たち、ガイン家の一族の中でも、領主を継ぐ可能性のあるものたちだけは知っている。
大おじい様が元は天上の世界の住人であったことを。
だから、ここで大おじい様が言っている遠い国とは、神々の世界のことで間違いないと思われる。
そこには、魔物の王、いや、魔物たちの神も住んでいるのだろう。
そんな神様を乗りこなせるほどの立派な人物に、とは、ちょっと無茶ぶりが過ぎるのではないだろうか。
まあ、それぐらいの気概でという意味だろうから、大おじい様の愛情ゆえの名付けなのだろう。
そんな俺もやがて成長し、嫁さんをもらうような年になった頃。
名乗りを上げてくれたのは、俺にとって、恋愛の対象外だった意外過ぎる人物だった。
今の俺の奥さん、従妹のティータは、俺の実の妹のフィーナにとても良く似ている。
双子の姉妹だと言えば、みんな疑うことができないだろうと言うぐらいには良く似ている。
そして、この二人は幼い頃からとても仲が良かった。
だから、俺の家にも良く遊びに来ていて、俺もそれに付き合っていた。
俺にとってのティータとは、まさにもう一人の妹というべき存在だったんだ。
そんなティータから、ある日、大事な話があるからと、ガイン家の裏庭に呼ばれた時、何の話だろうとしか思っていなかった。
出向いてみると、妹のフィーナと一緒に待っていて、そこから切り出された話は、とても信じられないものだった。
「リョウマお兄様、いえ、リョウマ様。お慕い申し上げていますデスので、私と結婚を前提にしたお付き合いをして欲しいデス」
そんなティータに、俺はきっぱりと言い切って袖にした。
お前のことは好きだけれども、それは、もう一人の妹としてだ。
とてもじゃないが、恋愛の対象としては見れないと。
そんな俺の返答は、ティータとフィーナにとっては予想の範囲内だったようで、それから猛烈なアタックを受けることになる。
最初の頃は、強引に俺と手を組んで歩きたがるような、かなり鬱陶しいと思えるような行動をとっていた。
俺にとっては、やっぱり、妹がじゃれついてきているぐらいにしか感じられなかったんだ。
だが、そういう迫り方では効果が薄いとあちらも気づいたのだろう、ある日から作戦が変わったようだ。
なにかと俺に甘えるようになり、できれば俺と一緒にお買い物がしたいとおねだりされるようになった。
元々、かわいい妹だとは思っていたので、甘えられると俺は弱かった。
気が付いた時には、普通にお付き合いを始めていて、そのまま、あれよあれよという間に結婚までしてしまっていた。
なんだか、してやられたような気がしないでもないのだけれども、まあ、それもいいかと考えるようになっている。
なんだかんだ言ってはいるが、やっぱり、俺の奥さんはかわいいからな。
そして、五年前には長男のイサミを授かり、昨年には長女となるシズカも授かった。
俺は、今、とても幸せを感じている。
これから死ぬまで、それは変わらないだろう。
そんな小さな幸せを領民のみんなも感じられるように、領主として、俺はこの領地の運営を頑張っていきたい。