先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第164話 六代目領主リョウマ
それから、二年ほどの時が経過した頃。
昨年、ティータとフィーナは、またしても仲良く女児を出産していた。
出産前に二人から、以下の様にお願いをされていた。
「生まれてくる子供が女の子だったら、イサミとトシゾウの時に決めてもらっていた、女の子の名前を与えてやって欲しいデス」
そのため、予定通りに私が命名した。
イサミの妹がシズカ、トシゾウの妹がトモエである。名前の由来は、平家物語に出てくる女性である静御前と巴御前である。
シズカとトモエの家族たちは、この名前をとても気に入ってくれたようで、私は胸をなでおろしていた。
シズカは金髪に茶色の瞳、トモエは金髪に金色の瞳と、やはりよく似た従姉妹たちである。
そして、今日。
五十五歳になっていたカズシゲは引退を決意し、二十九歳になっていたリョウマに家督を譲った。
一族の伝統に則り、初代の私の目の前で、エルクの教えを家訓として、代々、受け継いでいく。
わざわざ私の立ち合いのもとに引継ぎを行うのは、この時の家訓が間違っていないかの確認の意味もあるのだそうだ。
そして、その家訓の最後に、カズシゲが独自の項目を追加していた。
「大おじい様の教えの中には、領主を引退した後の楽しみ方もあるのだよ?」
それを聞いたリョウマが、私の方に顔を向けて確認を取る。
「そうなのですか? 大おじい様」
私は首を振って否定する。
「何か特別な教えを残した覚えはないのですが……」
そう言ってカズシゲを見ると、クスクスと笑いながら教えてくれる。
「孫たちと遊んで暮らせば楽しく隠居生活を送れると、言い伝えられています。まあ、確かに、特別な教えではありませんね」
「ああ。それなら確かに、隠居後に暇を持て余しそうだと言った、三代目領主のエストに言いましたね」
そうすると、カズシゲが笑顔のまま、真相を教えてくれる。
「ええ。お父様からの伝聞になるのですが、エストおじい様からの教えでは、このようにも伝えられているのですよ? 大おじい様にとって、私たち子孫は、いくつになっても子供の頃の印象が強いようなので、何かお願いをする時は、子供の様におねだりすると効果的だと」
「なるほど……。確かに効果的なのは、認めざるを得ませんね」
私が何度も頷きながらそう言うと、家族の中に優しい笑い声が上がる。
時は移り、子孫たちが代替わりを繰り返しても、ずっと変わらずに続いていく家族の営みと、私への愛情の深さに、深い感謝の念を抱いた。
私は決して一人ではない。
たとえこの子たちが、私を置いて旅立ってしまうとしても、その子供や孫、そして子孫たちが、ずっと変わらずに私と共にいてくれる。
子孫たちを見送ることだけは、どうやっても慣れることはないだろう。
しかし、寂しがる必要はないのだと、気づかされた日だった。