先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第163話 ぱうんどけーき
それから、三年ほどの月日が流れ去った頃。
私は自室にて、ガイン自由都市の特産品のぶらんでーを楽しんでいた。
「ふぅ……。ぶらんでーは美味しいのですが、私だと量が飲めないのが難点ですね」
あまり酒を飲まない私にとって、ぶらんでーは強すぎると感じてしまうため、ちびりちびりとなめる程度にしか飲めない。
そのため、ボトル一本を開けようと思うと、かなりの時間が必要になってしまう。
「なにか他の使い方を考えた方がいいのかもしれませんね……」
ぱっと思いつくのは、紅茶にぶらんでーを入れて飲むことだ。しかし、それでも、大した量は消費できないだろう。
「そういえば、お菓子にお酒を使ったものがありましたね……」
ウィスキーを使った有名なチョコレート菓子が浮かんだ。しかし、肝心のカカオ豆が発見できていないため、そもそもチョコレートの再現が不可能だ。
他のお菓子で何かないかと、考えを巡らせてみる。
「『ケーキ』はどうでしょう?」
ケーキのスポンジ部分にブランデーを混ぜたものを思い出した。ただ、この国では、少なくとも平民の間でケーキを見た覚えがない。
自分で再現するにしても、細かい分量を覚えていないため、それも難しいだろう。
ただ、私は子供の頃にケーキを自分で焼いていたようで、大まかな手順は覚えている。顔などは思い出せないが、家族のだれかに手作りのケーキをふるまっていたような気がする。
そのため、なにか簡単に作れるケーキはなかったかと、さらに記憶を探っていく。
「そうだ。『パウンドケーキ』があるじゃないですか」
パウンドケーキなら、材料の小麦粉、砂糖、卵、バターを同じ重さだけ使えば作れるはずだ。
名前の由来も、それぞれの材料を一ポンドずつ使うことからきていたと記憶している。
ちなみに、パウンドケーキというのは、イギリスでの呼び方になる。
とあるラノベの影響で、フランスでの呼び方であるキャトルカールと言った方がピンとくる人も多いのではないだろうか。
キャトルカールとは四分の四という意味になる。ここでも、四種類の材料を均等に利用することが名前の由来になっている。
ちなみに、この国では、小規模ながら畜産業が存在しているため、酪農業も存在している。よって、チーズやバターも手に入る。
「そうと分かれば、早速、試作です!」
それから、領主館の料理長も巻き込み、開発が始まった。
数日をかけて試作品が完成し、今は領主の執務室で、休憩中のお茶請けとしての試食が始まっていた。
「これが、ぱうんどけーきですか……。お酒の風味が効いていて、とても美味しいですね」
どうやら、カズシゲには好評のようだ。
ここで、手伝いに来ていたリョウマが、別の切り口での感想を述べる。
「ただ、お酒を使っていますから、子供たちには食べさせられませんね」
私は、子供たちでも食べられる解決策を述べる。
「ぶらんでーを抜けば、子供でも食べられますよ?」
「そうなのですか?」
「ええ。もっと甘さが欲しいと思ったら、蜂蜜を混ぜるとか、あるいは、干しブドウとかを混ぜても美味しいですね」
そうやって出てきたいくつかの改善案を基に、料理長と一緒になってさらなる改良を加えていった。
やがて完成した各種のぱうんどけーきのレシピをまとめ、レシピ本として一般販売を開始した。
これで商売しなくてもお金は十分すぎるほど持っているし、一般的なものになれば競争が生まれ、より美味しいものが開発されるのではないかと期待したためである。
そうすると、平民たちの間ではお菓子などの贅沢品の文化はあまり発展していなかったため、瞬く間に人気となり、ガイン自由都市の新たな特産品として認知されるようになるのであった。