先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第135話 温度計
秒と電流の単位を決定した私は、その次にセルシウス温度の測定と決定を行う作業に取り掛かった。
しかし、その作業を行うためには、純粋な水と1気圧の環境が必要になってくる。
逆に言えば、これらさえ整えることができれば、氷は私のオリジナル魔法で作り出せるし、沸騰させるには普通に火を用いればいい。
これらのうち、純粋な水に関しては、水魔法で作り出す水が相当すると仮定した。この水で容器を何度も洗ってから測定する。
水に不純物が混じると、モル沸点上昇やモル凝固点降下と呼ばれる現象が発生するためである。
よって、残る問題は、1気圧をどうやって計測するかになってくる。日本で一般的な気圧の単位であれば、1013ヘクトパスカルが1気圧である。
このヘクトパスカルという単位は、圧力の単位であるパスカルに、100を意味する補助単位であるヘクトを加えたものになる。つまり、101300パスカルが1気圧に相当する。
なぜこのようになっているかと言えば、ヘクトパスカル以前に使われていた単位であるミリバールからスムーズに移行させるためであると考えられる。
そして、パスカルは、力の単位であるニュートンを面積の単位である平方メートルで割り算して求められる。
つまりは、MKSA単位系で表現できる。
また、1気圧は、別のもっと簡単な方法でも求められる。水銀柱ミリメートルと呼ばれる方法である。
大気圧によって押し上げられる水銀柱の高さで気圧を計測すればいい。この方法であれば、水銀柱の高さが760ミリのときが1気圧になる。
ただ、やはり、前世の単位の換算方法が不明であるため、どちらも計測不能だ。
しばらく考えたが、晴れた日の領主館の気圧を1気圧と仮定することとした。
この星と地球の環境は非常によく似ているため、それほどのズレはないだろうと判断したためである。
ただ、晴れた日は高気圧に覆われているため、1気圧よりも若干高いのではないだろうかと考えられる。
しかし、高気圧というのは、周囲と比較して気圧の高い部分になっている。何気圧から高気圧という定義は存在しない。
そのため、高気圧の中心部でも、1013ヘクトパスカルからはそう大きくズレない。
そして、この程度の気圧差であれば、凝固点や沸点に与える影響はそれほど大きくないだろうと判断したのである。
ここまで考えれば、後は実際に計測するだけになってくる。
ただ、凝固点を0度、沸点を100度として、間の温度を100等分できる温度計が必要になってくることに気が付いた。
またしばらく考えたが、水銀温度計を作成することにした。
前世の日本であれば、もっと安全なアルコール温度計が存在する。ただ、アルコールは沸点が約78度であるため、100度までは計測できない。
そのため、アルコール温度計という名称にも関わらず、実際には灯油が用いられていることが多い。しかし、こちらの世界では石油が発見できていないため、灯油は入手不可能だ。
そのため、それより以前に広く使われていた水銀を用いることにした。ただ、水銀は人体に有害な物質であるため、その取扱いには細心の注意が必要になってくる。
私はそのことをガラス職人に教え込み、慎重に取り扱ってもらって温度計を作成した。
このように、試行錯誤を続けながらセルシウス温度を計測し、それに273を足し算して、物理に必要なケルビン温度を決定したのであった。