先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第133話 すとっぷうぉっち
それからの私は、まずは手始めにと、秒の単位を決定するための作業を開始していた。
最初に行ったのは、領主館の庭に日時計を作ったことである。二週間(十二日)ほどかけて、正確な南中の方角を割り出した。
その次に行ったのは、ストップウォッチの魔道具の作成である。
これは、ボタンを押してから次にボタンを押すまでの間の空ループの回数をカウントするものになっている。
そうやって、日時計で南中から南中するまでのループ回数を計測し、24×60×60で割り算して、一秒あたりのループ回数の平均を割り出した。
ちなみに、一日の長さが24時間、一周の角度が360度といった数字に疑問を持ったことはないだろうか?
もっと切りのいい数字、例えば20時間とか500度とかにした方が分かりやすくならないかとも思える。
これらの数字は、実は割り切れる数の多さに特徴がある。
例えば、500という数字が割り切れる1以外の一桁の数を見てみると、2,4,5となる。
これに対し、360という数字であれば、7以外の全ての数字で割り切れることになる。
時間や角度といった数字は分割して考えることが多くなるため、このように割り切れる数が多いほうがなにかと便利になっている。
このような数字は12進法や60進法と呼ばれ、紀元前十五世紀ごろにはバビロニア人が使っていて、実はかなり歴史のある数字体系になっているのだ。
閑話休題。
私は一秒単位での時間の考え方を広く教えるため、時計の魔道具も作成した。
ただ、前世の時計のように、同一の軸で、長針、短針、秒針を別々に作動させる方法が分からなかったため、それぞれで一つの軸を使用する方式になっていた。
ちなみに、私が発明したプレートの連動方式では、オン・オフでしか制御ができない。
そのため、まともに使用してしまうと、六十秒を表現するのに六十本もの配線が必要になってしまう。
私は、この問題を2進数の考え方を導入することによって回避している。
つまり、2本の配線があった場合、オンを1、オフを0とすると、00で0秒、01で1秒、10で2秒、11で3秒と、4種類の組み合わせを表現するのである。
この方法であれば、6本の配線があれば2の6乗、つまり64種類の信号が通信できるようになるため、必要な配線の数をぐっと減らすことができる。
そうやって作られた「トケイ」の魔道具の使い方を広めるため、初等学校でのカリキュラムにその見方を追加することにした。
また、これは余談になってくるのだが、「すとっぷうぉっち」の魔道具が作成できたことにより、細かい時間が計測できるようになった。
それを利用して、魔道具の作動時間を確認してみた結果、魔法式のプレートの魔法文字が小さくなるほどに処理速度が上がることが判明していた。
この性質は前世での半導体の集積回路と同じであるため、もしかすると、小型化するほどに消費魔力も少なくなるのではないかと考えている。
そのため、いつかは正確な魔力計も作成したいと思っている。
話をトケイに戻すと、この魔道具により細かい時間が分かるようになってはいたが、高価な品になっているため、各家庭に普及させることができない。
そのため、領主館のすぐ近くに時計塔を建設した。
そこには、大きなトケイの魔道具と鐘楼が設置されており、領民が時間を確認できるようになっている。
また、この時計塔では、午前六時から午後六時までの二時間おきに計七回、鐘を鳴らして領民に広く時間を知らせている。
この時計塔は領民たちに親しまるようになり、いつの間にか、ガイン自由都市の新たな観光名所としても知られるようになっていった。