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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第132話 大学設立構想

 それから私は、ヒデオ工房の工房長の部屋で、一人、平民たちの学力をさらに上げる思索しさくを続けている。

「やはり、さらなる学力をるとなると、あらたな学校の建設けんせつしかありませんね」

 いつものようにひとごとつぶやきながら、考えをまとめていく。

「ここは、『高校』数学を教えることにしましょう。そうすれば、私が記憶きおくしているほぼ全ての数学をつたえることができます」

 私は机にひじをつき、こぶしを顔の前で組み合わせて考えを進めていく。

「ただ、私が記憶きおくしているものだけでなく、もっと発展はってんさせるためには、研究室も作りたいですね」

 いつまでも私が教えるだけでは、それ以上の発展はってんのぞめなくなる。ここは、自力で発見してもらうために、研究室を用意するのがいいだろうと考えを進める。

「そうなってくると、『大学』制度しかありませんね」

 三年で学習を修了しゅうりょうし、残り一年で研究室に入って卒業そつぎょう研究けんきゅうをする、前世の大学制度を取り入れることにする。

「そうなってくると、『大学院』制度や『教授きょうじゅ』制度も必要になってきますか……」

 卒業そつぎょう研究けんきゅうをさせるためには、専門の研究職が必要だ。予算よさんの問題もあるが、それをクリアしたとしても人材の問題が残る。

「ここは、じっくりとこしを落ち着けて、人材じんざい育成いくせいをする必要がありますね……」

 大学だいがく教授きょうじゅになれるだけの人材を育成いくせいするとなると、教育きょういくにかなりの時間が必要になってくることが分かる。

 ほかにいい方法も思いかばないため、こればかりはあせっても仕方しかたがないと本腰ほんごしを入れて教育きょういくをすることを決定する。

「自分たちで研究してもらうとなれば、数学だけではもったいないですよね。ここは、『物理』と『化学』もあわせて教えることにしますか」

 今後の科学の発展はってん期待きたいして、物理学部と化学部も併設へいせつすることを決定する。

「ただ、『高校物理』はともかくとして、『高校化学』は、そこまでくわしくおぼえていないのですよね……」

 私はどうやら物理が好きだったようで、高校物理は良くおぼえている。

 自然の摂理せつりである物理ぶつり現象げんしょうが、ごく単純たんじゅんな数式で表現できる様子ようすは、今でも美しさを感じるほどである。

 それにくらべると、化学はどうしても丸暗記まるあんきが必要な項目こうもくが多くなっていたため、少し苦手にがてにしていたようだ。

「ここは、妥協だきょうして、『化学』は『中学ちゅうがく卒業そつぎょう程度ていど基本きほんのみとしましょう」

 前世の知識ちしき乱用らんようして、各種の化学かがく物質ぶっしつ名称めいしょうを決めてしまうのもはばかられる。自分たちで発見して命名めいめいしてもらうためにも、基礎的きそてき内容ないようのみを教えることに決定する。

「『物理』を教えるとなると、各種の単位たんいも決めなくてはならないですね」

 物理には、ニュートンやジュールといった独特どくとく単位たんい形態けいたいがある。これらをまずは決めてしまわないと、教えることができない。

「ここは、昔の偉人いじんたちの知恵ちえりて、『MKSA単位たんいけい』を参考さんこうにしましょう」

 現代の単位たんいは、国際こくさい単位たんいけいと呼ばれるもので厳密げんみつ定義ていぎされている。ただ、この定義ていぎを私はほとんどおぼえていない上に、参考にするにはかなりの精度せいど測定器そくていきが必要になる。

 そのため、それよりも昔に採用さいようされていたMKSA単位たんいけいと呼ばれるものを参考さんこうにすることにする。

 MKSA単位たんいけいというのは、全ての単位たんいを、メートル、キログラム、秒、アンペアの組み合わせだけで表現するものである。

 たとえば、力の単位たんいであるニュートンは、メートル、キログラム、秒の組み合わせで表現できる。

「『メートル』と『キログラム』にかんしては、そのままこの世界での単位たんい代用だいようするとして、問題は『秒』と『アンペア』ですね」

 この国での時間の単位たんいはかなり大雑把おおざっぱなものになっていて、秒にあたる細かい単位たんいが、少なくとも平民の間にはつたわっていない。

「『秒』については、この星での一日の長さを二十四『時間』と決めてしまって、そこからもとめることにしましょう」

 かつて里でやったように、日時計を作って、かげ南中なんちゅうの位置に来る時間じかん間隔かんかく計測けいそくすれば、一日の長さが分かる。

 それを24×60×60で割り算すれば、一秒がもとめられる。

 この星の一日の正確な長さは不明だが、一年がおよそ三百六十三日であろうことなどから類推るいすいするに、地球とそれほど極端きょくたんにはちがわないだろうと考えられる。

「『アンペア』については、『電子でんしボルト』が計測けいそくできれば一番いいのですが……」

 電流でんりゅう単位たんいであるアンペアは電子でんしの流れる量であるため、これさえ判明はんめいすればアンペアは求められる。

 しかし、そのような精密せいみつ測定そくていは不可能であるため、ほかの方法を考える。

 電圧でんあつ単位たんいであるボルトと、電気でんき抵抗ていこう単位たんいであるオームさえ判明はんめいすれば、アンペアを求めることは簡単かんたんであるが、どちらも測定そくてい不能ふのうだ。

「『電流でんりゅう』でこる、測定そくてい可能かのう現象げんしょう……」

 しばらくなやんだが、フレミングの法則ほうそくを思い出したときにひらめいた。

「二本の平行な銅線どうせん電流でんりゅうを流し、引き合う力の強さから求めましょう」

 銅線どうせん電流でんりゅうを流すと、そのまわりに磁場じば発生はっせいする。

 そして、もう片方かたほう銅線どうせんに流れる電流でんりゅうにフレミングの左手の法則ほうそくてはめられ、引きせ合う力が求められる。

 このときに、磁気じき定数ていすうと呼ばれるあたいが分かっていると前世のアンペアが求められるが、残念ざんねんながらおぼえていない。

 そこで、この世界での独自どくじたんとすることにして、磁気じき定数ていすうあつかいやすいものに変更へんこうして、あらたな電流でんりゅう単位たんいを求めることにする。

理論的りろんてきには、ここまで求められれば全ての単位たんいが表現できますが、『熱力学』を考えると、『ケルビン』温度おんどをどうするかですね」

 熱力学には、ケルビンという温度おんどもちいられる。これは、日本では一般的いっぱんてきなセルシウス温度おんどから求められる。

 セルシウス温度おんどは、1気圧下きあつか純粋じゅんすいな水がこおり始める温度おんどを0度、沸騰ふっとうする温度おんどを100度として求められる。

 ちなみに、MKSA単位たんいけいでは、温度おんど単位たんいはジュールで表現できる。

 1気圧下きあつか純粋じゅんすいな水1グラムの温度おんどを1上昇じょうしょうさせるのに必要な熱量ねつりょうが1カロリーであり、1カロリーは約4.2ジュールである。

 しかし、前世の長さや重さなどの単位たんいをこの世界での単位たんいかんさんする方法が分からないため、ジュールからは求められない。

 よって、昔ながらのセルシウス温度おんどをまずは求め、それに273をし算して、ケルビン温度おんどを求めることとする。

「これで、『物理』と『化学』はなんとかなりそうですね。ただ、季節きせつのずれないこよみも欲しいので、『天文てんもん』学科も併設へいせつすることにしますか」

 物理学部の一学科として、天文てんもん学科がっか設立せつりつすることを決定する。

 ただ、正確なこよみを作るためには、地味じみで長い期間の観測かんそくが必要になってくるため、少し予算よさんゆうぐうすることもあわせて決定する。

「まずは、各種かくしゅ単位たんい計測けいそくと決定ですね。それができてから、『教授きょうじゅ候補こうほの研究者の育成いくせいです。これは、十年がかりの大仕事になりそうです」

 私は、大学の設立せつりつけて、各種の準備じゅんびを始めることにする。