先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第120話 対陣
国王からの使者を追い返してから、一年ほどが経過した頃。
未だに貴族連合軍は挙兵できないでいた。
私はあれからすぐに諜報専門の部隊を組織し、各地に放って情報収集を続けていた。
それによると、やはり、平民の傭兵たちが非協力的なため、なかなか思うように編成作業ができないでいる模様だ。
それに対して、こちらは時間が十分に稼げたため、準備万端になっていた。
貴族たちとの戦争の噂を聞きつけた腕に覚えのある傭兵たちが国中から続々とガインの都市に集結していて、編成作業の方が難しいぐらいである。
傭兵に限らず、職人や商人といった一般民衆からも、ぜひとも自分たちも平民の都市を守りたいと入隊希望者が殺到していた。
だが、さすがに戦闘訓練をする時間が足りないため、丁寧に説明してお断りしている状態である。
そのような状況に業を煮やしたのか、他の貴族たちは強権を発動し始め、領地から出る平民を厳しく制限し、無理やりに徴兵した傭兵たちをとりまとめてようやく挙兵した。
諜報員からの情報では、後二日ほどしたら接敵する予定になっている。
エストは自ら陣頭指揮を執りたがったのだが、領主に万が一のことがあればガイン警備隊の士気に深刻な影響を与えると説得し、私が総大将として指揮を執っていた。
「私はこれでも、ガルムの都市で一番大きな傭兵団の副団長だったのですよ?」
そう言って、エストを宥めることに成功していた。
本心では、兵を指揮したことのないエストに一抹の不安を感じていたためである。
そして、平野部に陣地を敷いた私の元には、諜報員からの続報が次々に入ってきていた。
兵力としてはこちらの倍ほどになっているらしいが、士気はやはり最悪に近いらしく、ちょっとしたサボタージュなども頻発していて、行軍するのにも難儀している模様だ。
それに対してこちらの士気は最高潮で、平民のための都市を必ず自分たちの手で守り抜き、お貴族様に一泡吹かせてやると、陣の各所でときおり雄叫びが上がっている。
ただ、凄腕の傭兵たちは多数集まったのだが、集団としての訓練を行う時間が少なかったため、こちらも単純な横陣で迎え撃つことになっていた。
複雑な部隊運営は、まだ無理だと判断したためである。
それから三日後の午後すぎ。
予定よりもかなり遅れて、ようやく貴族連合軍と対峙した。
徴兵された傭兵たちは、いやいや従っている様子が遠目でも判断できるほどのありさまである。
最前線に配置された傭兵たちは、あからさまに前進することを嫌がっている模様で、後方で貴族と思しき騎兵たちが盛んに行き来していて、追い立てるようにして前進を声高に連呼していた。
(これなら楽勝そうですね。油断は禁物ですが)
私がそのように考えていた時、それは突如として起こった。
最前線の中心付近にいた傭兵の一人が叫んだのだ。
「やってられるか!! 俺たち平民のための都市を守る軍隊と、本気で戦えるわけがないだろう!! 俺はもう止めた!! みんなもさっさと逃げ出そうぜ!!」
そう言って、武器を地面に叩きつけ、手早く防具も脱ぎ去って、こちらに走ってきた。
(これはチャンスです!)
私はそのように素早く判断を下し、手早く部隊長たちに連絡を飛ばす。その指示に従い、前線の各部隊から投降を呼びかけ始めた。
「投降しろ!! 武器を捨ててこちらに逃げてくるのなら、こちらからは攻撃しない! 当面の宿泊先として宿屋を公費で無料開放するし、移住を希望するものには一時金を与え、しばらくの間の生活を保障する! これは、ガイン家の初代様のお言葉だ!!」
前線で連呼される投降の呼びかけに、雪崩を打ったように次々と傭兵たちが武器を捨て始めた。
こうして、一度も戦うこともなく、誰一人として血を流すこともなく、貴族連合軍との戦いは勝利で終わった。
貴族たちから見れば、戦う前に敗北してしまったわけで、このありさまを見せつけられた貴族たちの間で、以下の様なことが囁かれるようになった。
「平民を使ってガインの町を攻めるのは無理だ。それを押し通すとなれば、大規模な反乱を想定しなくてはならないだろう」
そうして、ガインの都市は、次第に手出し無用の土地として認識されるようになるのであった。