先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第119話 魔道具の父
デンタクの一般販売が始まって、しばらくが経過した頃。
ガインの都市の領主館の前に、見たこともないほどの立派な馬車が止まっていた。馬車から降りてきた男性は国王の使者を名乗り、応接室の上座で待っていた。
ちなみに、この国にも上座の考え方はある。入り口から遠いほど偉い人が座る席という認識のようだ。
執務室で仕事をしていたエストと私は呼び出されてその前にたどり着くと、いきなり跪くように言われ、なんだかよく分からないうちに国王様のありがたいお話とやらを聞かされることになった。
「国王様はデンタクの魔道具にとても興味を示された。大変名誉なことなので、すぐにデンタクを献上するように」
それを聞いたエストは、跪いて俯いたまま私の方へと視線を向け、語り掛けてきた。
「おじい様。私が領主として許可しますので、デンタクの開発者として、そして、この領地の初代として、使者様に言ってやってください」
私は一つ頷き、顔を上げて使者を見つめながら返答する。
「そのような理不尽な命令は、断固として拒否します」
「なっ……」
使者は顔を真っ赤に染めて、ワナワナと震えている。
私はそれに追い打ちをかけるように、すくっと立ち上がり、目線を合わせてそのまま話を続ける。
「五年前に他の貴族家たちがこの都市に向かって挙兵しようとしたとき、王族は何をしてくれましたか? 仲裁も何もしてくれませんでしたよね? 肝心なときに全く助けてくれない王族なのに、こんなときだけ都合よく従うように命令されても困ります。いまさら、ふざけているのですか?」
使者は、私とエストを交互に睨みつけながら確認を取る。
「本気なのか? それとも、国王様の命令を拒否するとどうなるのか、平民上がりにはやはり理解できないのか?」
私は使者の目を真っすぐに見つめたまま、さらに続きを語る。それが使者の怒りを増幅させる結果になることを承知の上で。
「別に売らないと言っているわけではありません。欲しいのでしたら、普通に予約を取って順番を守って買ってください」
「ふざけるな!! 国王様への献上品と平民の予約を、同列に扱うと言うのか!!」
私は大きく頷きを返し、肯定する。
「ええ、そうです。あなたもおっしゃっていましたが、我が家は平民上がりですので、平民の味方です。貴族だからとか王族だからといって、特別扱いはしません」
しばらく口をパクパクとさせていた使者だったが、再び我々を睨みつけて、最後の言葉を放った。
「……。後悔することになるぞ」
そのような捨て台詞を吐いた後、のしのしと、元来た馬車へと戻っていった。
その姿を見送ったエストは、私を見て、ニヤリと笑いかけてきた。
「さすがは私のおじい様です。スカッとしましたよ」
「ですが、これから戦争になるでしょう。急いで準備を整えなければなりませんね」
「でも、状況的には、五年前とさほど変わりませんよね」
私もニヤリと笑って応じる。
「そうです。それに、五年前と違ってこちらは準備が整っています。それに、これから挙兵するにしてもある程度の時間がかかるでしょうから、さらに入念な前準備もできます。必ず追い払ってみせましょう」
そして、私たちはこの会話の内容などを全て領民たちに公開し、貴族たちが報復のために挙兵するのは確実であることも併せて説明した。
その後、ガイン警備隊への入隊希望者を募り、食料や医薬品などの備蓄も始めた。
この話を聞いた平民たちは、貴族からの報復を恐れるのではなく、国王が相手でも一歩も引かずに平民の味方をすると宣言したガイン家に喝采を浴びせてくれて、領地が一丸となって戦争準備を始めたのであった。