先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第118話 魔道具の父
シゲルの婚約から、一年ほどが経過した頃。
特に大きな問題もなく、つつがなくシゲルの結婚式を終えていた。
ただ、結婚式直後に、クレアさんは以下の様にシゲルに宣言していた。
「私と結婚したのですから、以後の浮気は許しませんからね? 後、私が執務を手伝って差し上げますので、領主となった暁には、そのお仕事から逃げることも許しませんよ?」
このように、何本もグサグサと釘を刺されまくっていたシゲルは、俯き加減で小さく呟いていた。
「これだから、結婚はまだしばらくしたくなかったんだよ……」
しかし、それを耳ざとく聞きつけたクレアさんにひと睨みされただけで、小さく縮こまってしまっていた。
早くも尻に敷かれているようだが、女性が少し強いくらいの方が長く家庭円満でいられるという話をどこかで聞いていたため、私は微笑みながらその様子を眺めていた。
それからの私は、ようやく完成に漕ぎつけたデンタクの魔道具の販売に向けた準備に奔走するようになる。
最初に考えていた時よりもかなり安価になったとはいえ、魔道具として考えてもかなり高額な商品になっていた。
大きさもかなり小型化できていたのだが、それでも、フルタワーパソコンを四つ横に並べた程度の大きさになっていた。
また、ボタンの部分は、押しやすいように少し斜めに出っ張りを作っていた。
これらの設計のため、重量も専用の台が必要になってくるほどの重さになっていた。
しかし、計算ができる魔道具の噂は、瞬く間に広がりを見せるようになる。
魔道具店で陳列されるようになったデンタクの前で、計算が得意なものを連れて来て、答えが本当にあっているのかどうかを何度も確認するものが現れるなど、ちょっとした混乱もあったのだが、噂が噂を呼び、生産が追い付かないほど売れに売れている。
また、このデンタクもトッキョを取り、同時に発売された解説本もチョサクケン登録をしていた。
この頃になると、トッキョの意味がようやく理解できたのか、ちらほらと、トッキョの申請をするものが増えてきていた。
私がレイゾウコなどのトッキョは取得していたが、秘伝の塗料と合金の製法は申請していないことから、本当に秘匿したいものはトッキョを申請しない方法もあると理解できた点も大きかったようだ。
そのため、それ以外のものであれば、トッキョ登録すればそれ以上何もしなくてもお金が入って来ると、だんだんと周知されるようになっていった。
トッキョ制度を推進したのが私であることや、再現不可能と言われていた合金の開発に成功したこと、そして、デンタクの開発とその技術を一般公開したことなどが広く平民に知られるようになり、私は「魔道具の父」という、新たな二つ名をいただくことになった。
私は、一般公開すればとても有用な技術になると考えていた合金の製法を秘匿し続けていることで、何か非難を受けるのではないかと覚悟していた。
だが、これまではコピー天国であったため、重要な情報を秘匿することに対して特に忌避感がない様子で、特に問題視されなかった。
それどころか、複数の魔法式のプレートを連動させる技術を特に隠しもせずに公開したことが高く評価され、大変名誉な二つ名が増えることになったのであった。