先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第117話 シゲルのお嫁さん
それからさらに、二年ほどの月日が流れ去った頃。
シゲルは二十六歳になっていた。この国だと、男性は女性ほど婚期を厳しく言われない風習だが、それでも、そろそろ恋人を紹介するようにと家族から催促されるようになっていた。
そんなある日。
紹介したい人がいるからとシゲルに言われた家族たちは、エストの執務室に集合していた。
家族たち全員を軽く流し見してから、シゲルが恋人を紹介し始めた。
「私としてはもう少しだけ独身でも良かったのですが、これ以上待たせるなら別の人を探すと言われてしまいまして、私も観念することにしました」
そのように断りを入れてからシゲルはいったん退出し、一人の女性を伴って部屋に帰ってきた。
その女性は、私とエストは良く知っている人だった。
「お初にお目にかかる方もいらっしゃるかと思います。私はクレアと申します。これから末永く、よろしくお願いいたします」
クレアさんは、きれいな銀髪を肩まで伸ばした、そばかすがチャーミングな素敵な女性だ。
彼女は公立の高等学校を主席で卒業した才女としても広く知られていて、官僚として順調に出世を続けている女傑だ。
「シゲルにはこんなに素敵な恋人がいたのですね……。こんなにいい人をずっと待たせていたなんて、よく今まで愛想をつかされませんでしたね」
そう言って、エストは苦笑しながら二人の婚約を許可した。
また、この頃になると、ようやく準備の整ったトッキョ庁も活動を開始していた。
このトッキョ庁は、前世での著作権協会の機能も併せ持つこの領地独自の新しい省庁としてお披露目されていた。
ただ、四年の周知期間を置いてからトッキョ関連の条例が施行されていたのだが、領民たちは、まだこの新しい権利の意味を良く理解できなかった模様で、トッキョの登録をするものが誰も現れなかった。
そのため、私はレイゾウコとくーらーの魔道具をトッキョ第一号とし、いつか公開することを考えて書き溜めていたそれらの解説本も、同時にチョサクケン第一号としてトッキョ庁に申請を出した。
レイゾウコなどの情報を一般公開することに対し、弟子たちはかなりの難色を示していた。
しかし、どうせヒデオ工房だけでは生産が間に合っていないこと、合金や塗料の製法はそのまま秘匿するため、価格競争的に我が工房が有利なのは変わらないことなどを説明し、なんとか説得に成功していた。
また、レイゾウコなどの解説本には、複数の魔法式のプレートを連動させる技術についても詳しく解説がなされていた。
この本を読むまで、連動させていることに気づいていなかった魔道具職人たちは、驚きとともにその事実を受け入れ、気前よくそれを一般公開した私への評価が、うなぎ上りとなる結果になっていった。