先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第114話 合金の完成
ガイン警備隊の設立から、二年ほどが経過した頃。
ようやく、金色の粉を混ぜ込んだ合金が完成していた。
トッキョ庁の設立準備やガイン警備隊の編成と訓練など、かなり忙しい日々を送っていたのだが、なんとか時間を作って少しずつ研究を進めていた。
ちなみに、魔力伝導率だけで考えた場合、銀にあの粉を混ぜ込んだものが最も数値が良かった。
しかし、この世界でも銀はそれなりに高価な金属になる。
そこで、価格の安い鉄をベースにして、適量の銅と少量の銀を配合することで、魔法銀よりも僅かに伝導率が低い程度になり、価格と実用性の両立を図ることができた。
もはや古代魔法文明時代の伝説となっていた合金の開発成功のニュースは、魔道具業界に驚愕と共に激流となって流れていた。
ただ、この合金を使った魔道具の販売価格を巡り、私は弟子たちからの猛反発を受けていた。
私の原価計算によれば、五分の一程度にまで価格を抑えられるとはじき出したのだが、これは、弟子たちにとって到底受け入れられない金額だったようだ。
価格決定会議の場で、従業員を代表して副工房長のワントが意見を述べる。
「五分の一という価格にしてしまいやすと、他の工房で魔道具が売れなくなってしまいやす。初代様は、他の全ての工房を潰すおつもりでやすか?」
私は頭を振って否定する。
「そんなつもりはありません」
「ですが、その価格にすると起こりえやすぜ? それとも、この都市の全ての職人を雇用しやすか?」
そういうことも考えなくてはならないのかと気づいた私は、黙ってワントに説明の続きを促す。
「そうなってしまえば、我が工房は、初代様の仰っていた独占企業になりやす。それは、常々初代様が主張しておられる、競争原理から外れた事態になりやしませんか?」
その指摘を受けた私は、しばらく顎に手を当てて考えを巡らせ、さらにワントに対して質問を投げかける。
「では、ワントはどのくらいの価格が適正だと考えているのですか?」
ワントは考えるそぶりも見せず、即答する。
「現在の価格の七割ぐらいでやしょうね」
さすがにそれはぼったくりすぎだと考えた私は、もう少し値引きできないかと、弟子たちを中心とした経営陣たちと、侃侃諤諤の議論を重ねた。
そうやって、ようやく結論のでた販売価格は、現行の半額となった。
ワントたちの説明によると、これはギリギリの譲歩になるそうだ。
これ以上の価格破壊は、どうせ転売屋が利益をだすだけになるので、価格を下げる意味がなくなると説明を受けた。
そのような経緯を経て販売された新価格での魔道具は、飛ぶように売れていった。
すぐに生産が間に合わなくなっていき、レイゾウコの時のように予約生産性に移行した。
しかし、それでも予約が次々に積みあがって行き、気が付けば、二年先まで予約で埋まってしまっていた。
弟子たちは工房の規模を拡大すべきだと主張していたのだが、これ以上ヒデオ工房だけが大きくなってしまうと競争が生まれにくくなってしまうと説得し、あえて生産量を抑えていく方針を決定した。