先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第113話 特許庁設立準備
エストと今後の準備について相談してから、数日が経過した頃。
私は、この領地独自の条例として、特許庁の設立のための準備を始めていた。
今のままではコピーしたもの勝ちであるため、新しい発見や研究内容が秘匿されるばかりでなく、研究自体にあまり熱心ではない状況を危惧したためだ。
いつまでも私一人が新技術を開発し続けているようでは、これ以上の発展は望めないと思い始めていた。
ものはついでとばかりに著作権の考え方も周知することにして、新しい作家や音楽家などの権利の保護も説いて回ることにした。
ただ、これらの権利は、これまでの考え方とは異質なものになるため、すぐには受け入れられないだろうということは容易に想像ができた。
そのことを考慮に入れ、公立学校の授業で特許権や著作権の考え方を教え始めていて、数年単位で周知していくことにした。
特別臨時講師という職を利用し、特別授業の時間を利用して、繰り返しこれらの権利の重要性を私も直接説いていた。
「先生、自由にコピーできなくなれば、領内の経済が停滞するのではありませんか?」
その特別授業の時に、一人の男子生徒が熱心に質問してきた。
「それは逆になりますね。自由にコピーできる状況を放置していては、研究が行われなくなり、新しい技術が生まれなくなります」
「それはなぜですか?」
少しでも新しい知識を身に着けようとするその姿勢に、私は頼もしさを感じ取り、同時に他の生徒にも分かりやすくなるようにと、なるべくかみ砕いて丁寧に説明を加える。
「研究というものは、長い時間と多額の費用が必要になるものです。ですので、自由にコピーができてしまう環境ですと、新しく研究開発するよりも、誰かが発見した新技術をコピーする方がはるかに安上がりになってしまいます」
生徒たちが頷いているのが見えたため、私はさらに説明を続ける。
「コピーした方が楽だとなってしまうと、誰も無理してまでは研究しなくなるでしょう? また、偶然に何かを発見したとしても、コピーされるのを恐れてそれを秘匿するようになってしまいます。このような状況では、新技術を研究したり普及させたりするのは不可能になります」
教室の中をざっと見まわしてみると、みんな熱心に聞き入ってくれているようだ。私はこの授業に確かな手ごたえを感じ、ここで特許の有効性についての説明を加える。
「ですので、せめて研究開発の費用の元がとれるぐらいには発見者の権利を保障し、そのために、『特許』として登録してもらうようにします」
私がここまで説明すると、先ほどとは別の男子生徒が勢いよく手を挙げてきた。私は彼を指し示し、質問を許可する。
「先生、トッキョとして登録すると、なぜお金が研究者に回るようになるのですか?」
それはとてもいい質問に感じられたため、私は大きく頷き、微笑みながら説明を加える。
「トッキョ登録された技術を使う場合は、売上の一定割合の金額を登録者に支払うように義務付けるからです。また、勝手にコピーした場合の取り締まりも、この新設するトッキョ庁の管轄になりますね」
このようにしてこれらの権利の意義を広く教えていき、トッキョ庁の職員として新たに雇った官僚たちの教育も行いながら、私は日々を忙しく過ごしていた。