先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第112話 半自治領
この頃になると、発展したガインの都市の様子を見た貴族たちからの反発が、かなり強まってきていた。
とある貴族にいたっては、傭兵を動員し始め、挙兵するそぶりを見せるものも現れていた。
そんな情勢の中、私は領主のエストに、この件についての相談を持ち掛けられていた。
「おじい様、万が一、このまま挙兵されてしまった場合、今の戦力で守り切れるでしょうか?」
私は微笑みながら、大きく頷いて肯定する。
「もちろんです。挙兵できたとしても、その主力は平民の傭兵たちになります。私のところにも、彼らが命令に逆らえず、しぶしぶ従っているという様子が報告されています。そのような軍隊の士気が高いはずがありません」
それでもエストは少し不安な様子で、質問を重ねる。
「それは分かっていますが、やはり、数が脅威です。いずれは常時雇用している傭兵たちを拡充する必要があるのでしょうが、今すぐには間に合いませんよね?」
私は笑顔を深め、心配は無用だと伝える。
「確かに、それは今後の課題ですね。ですが、もし今すぐに挙兵されたとしても、こちらには私がいます。必ず追い払って見せましょう」
エストは目をぱちくりとさせて、私の自信満々な様子の根拠を尋ねる。
「それは頼もしいのですが、おじい様には、何か、必勝の作戦があるのですか?」
私は再び大きく頷いて肯定し、その根拠について語る。
「ええ。いざという時は、私が単騎で後ろから近づいていき、指揮官のいるあたりに遠距離から『いんふぇるの』をぶち込みます。護衛の騎士たちごと、指揮官を焼き払って見せましょう」
その返答を聞いたエストは、顔を引きつらせながら指摘した。
「お、おじい様……。そんなことをしてしまえば、おじい様は、再び……」
「ええ。私は再び、『耳長の悪魔』と恐れられるでしょうね。ですが、この都市は、既にここの領民たちだけのものではありません。この国の全ての平民たちの希望だと聞いています。ここを滅ぼされることを考えれば、私が背負う悪名など、気にするほどのことではありません」
エストとはそんなやりとりをしていたのだが、結局、実際に挙兵する貴族は現れなかった。
動員されそうになった傭兵たちの中には、それに嫌気がさしてしまい、ガインの都市の傭兵団に鞍替えするものが多数現れたからである。
そのために予定していた兵数を揃えることができなかったようで、挙兵を断念していた模様だ。
それはありがたいのだが、一気に増えたガインの都市の傭兵たちの中には、職にあぶれるものも現れ始めていた。
軍備の拡充が急務だと考えていたエストはこれを好機としてとらえ、常時雇用している傭兵たちの組織を改編し、彼らを「ガイン警備隊」として編成しなおした。
これは、名前こそ警備隊であったのだが、誰が見ても、実質的には常備軍であることが明らかだった。
そのため、ガインの都市は、しだいに王国の統治が及ばない半自治領として認識されるようになっていくのである。
これはずっと先の話になる。
平民たちが立ち上がり、貴族たちの支配からの解放を叫んで反乱が勃発したその時には、ここで組織されたガイン警備隊の後継組織が、反乱軍の主力として活躍するようになるのである。