先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第111話 合金の研究
それからの私は、無理を言ってガインの都市のとある鍛冶屋に弟子入りさせてもらっていた。
あの金色の粉を混ぜ込んだ、合金の研究をするためである。
あの粉そのものは一般公開できないとしても、魔力を通しやすい合金が完成すれば、かなり安価に魔道具が提供できるようになるはずだ。
ルツ親方の研究では、糸を使った配線は魔力伝導率が極端に悪かった。
かなり後になって思いついたのだが、これは、有機物と無機物の違いではないだろうかと仮説を立てた。
魔石に魔力を込めるほど抵抗力が増える。
これと同様に、植物由来の糸では、それに含まれている植物自身の魔力によって抵抗力が高まってしまい、魔力がほとんど流れないのではないかという仮説だ。
であるのならば、金属などの無機物を使って合金を作れば、魔力伝導率の良い配線ができるはずだと考えを進めた。
弟子入りをお願いした鍛冶屋の親方はラゴンさんという人で、かなり体格のいいゴリマッチョである。
「親方、無理を言ってすいません。ただ、鋳造や鍛造の方法は教えていただかなくても大丈夫です。合金を作るための冶金技術だけ、伝授してはもらえませんか?」
私がそのようにお願いしてみると、ラゴンさんは両掌を前に出し、ブンブンと頭を振りながら告げた。
「親方はよしてくださいよ。初代様にそんなに畏まられると、こっちが恐縮してしまいまさぁ」
「しかし、無理を言って教えを乞うのですから……」
ラゴンさんは右の掌で私の主張を遮って、自説を述べる。
「初代様、この都市に住む住民であれば、誰しもがあなた様のお世話になっているなんてこたぁ、身に染みて理解していますぜ? そんなお人が俺のチンケな工房に、わざわざ足を運んで勉強なさろうとしてまさぁ。それだけでもかなり名誉なことなのに、この上、敬称で呼ばれたりしたら、他の住民からの嫉妬が怖いんでさぁ」
そのように言って、ラゴンさんは快く冶金技術を伝授してくれた。
私はそれの謝礼として、いくばくかの礼金を渡そうとしたのだが、これも固辞されてしまった。
「初代様、あなた様が俺なんかの技術を使ってなさろうとしていることが何なのか、俺にはさっぱり分かりません。ですが、あなた様のやることであるのならば、俺たち平民のためになることなのでしょう?」
私はそれに大きく頷きを返し、肯定する。
「ええ、もちろんそのつもりです。この研究が実を結べば、魔道具がもっと安く提供できるようになるはずなのです」
「でしたら、なおさら 金 は受け取れませんぜ? 平民のために使うことだけ、約束してくださいな」
そうやってラゴンさんと約束を交わし、私は合金の研究を開始した。
まずは手始めにと行ったのは、私専用の小さな冶金工房を作ったことだ。配線に使う程度であればそこまでの規模は必要ないので、これで十分だと判断したためである。
それから研究を開始してすぐに判明したのは、やはり、有機物を混ぜ込むと魔力伝導率が極端に下がることだった。
しかし、それであるならば、魔石やそれから作られるあの粉も有機物に分類されるはずである。
だが、おそらくは、魔石由来のものだけは、ある種の例外なのだろうと結論付けた。
そうやって、混ぜ込む金属の種類を変更してみたり、量を変更してみたりしながら研究を続け、最も魔力伝導率の良い配合を探し始めた。