先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第110話 通称、ガインの都市
島アルクの里を再訪問してから、一年ほどが経過していた頃。
ガインの町は拡大と発展を続けていた。今では、近隣のガルムの都市と比較しても遜色がないほどの規模になっていた。
そのような事情であったため、この町に住む住人たちは自分たちの町ことを、誇りをもって「ガインの都市」と呼ぶようになっていた。
ただ、正式には町のままであったため、貴族たちは蔑みを込めて「ガインの町」と呼び続けている。
そのため、官僚たちの中には、次のように進言するものも現れていた。
「領主様、ガインの都市を正式な都市とすべく、国王様に申請しましょう」
しかし、エストは、次のように言って取り合わなかった。
「我がガイン家は、どうせ貴族たちには嫌われています。申請しても無駄でしょう。それに、我が家が上級貴族になってしまいますと、他の貴族家といらぬ諍いの種になってしまいます」
実際、代々のガイン家の領主たちは、リスティン王国が崩壊するその時までずっと中級貴族のままであり、貴族たちは最後まで、我々の都市を「ガインの町」と呼び続けることになる。
また、私はこの頃になると、例の金色の粉の存在を一般公開しようと考えていた。
そのことを副工房長のワントに相談してみると、猛反対にあった。
「初代様、そんなことをしてしまえば、我らヒデオ工房の売り上げが激減しやすぜ? あなた様は、あっしらを路頭に迷わせるつもりでやすか?」
私はブンブンと勢いよく頭を振って否定する。
「そんなつもりはありません」
ワントは私の目をじっと見つめながら、さらなる問題点も指摘する。
「それに、それをしてしまいやすと、ルツ工房の経営も危うくなりやす。ヒデオ工房は初代様が作られたものでやすから、ご自由になさってもいいかもしれやせんが、大恩あるルツ工房を潰すつもりでやすか?」
それを聞いた私は、そういうこともありうるのかと、顎に手を当ててしばらく考え込んでしまった。
「それに、初代様。生産量のことは考えておいででやすか?」
私は指摘されている意味が分からず、思わずキョトンとして聞き返してしまう。
「と、いいますと?」
「あの粉を量産できるのは、今のところ、初代様だけでやす。お一人で全ての需要を賄えるだけの粉を生産することなんて、不可能でやしょう」
その説得を受けた私は納得し、あの粉の存在は秘匿し続けることにした。
ただ、何か別な方法で平民たちの技術力を底上げできる方法はないかと、思案するようになっていた。