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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第108話 豆乳美人

 これは、島の里のみんなにトウフ作りを順番に教えていたころの話になる。

 クリスさんは、いつものように私と共にみんなの作業を見て回っていた。彼女の中では、これはデートになるらしい。

 そうやってトウフ作りを教えていると、クリスさんがあるものを見ながら質問をしてきた。

「ヒデオ様、このトウニュウというものは、もしかして飲めるのですか?」

 私は大きくうなずいて肯定こうていする。

「ええ……。味はこのみもありますが、私は美味おいしいと思っています」

 そして、ついでとばかりに、豆乳とうにゅうまめ知識ちしきも教えることにした。

「トウニュウには、ダイズ『イソフラボン』という物質が多く含まれていまして、美肌びはだ効果こうかがありますから、私の故郷だと、若い女性でこのんで飲んでいる人が多かったようですね」

 私のそんなちょっとした蘊蓄うんちくを聞いたクリスさんは、若干じゃっかん目をかがやかせながらウンウンとうなずき、とある宣言をした。

「それはいいことを聞きました。私も飲みますね」

 その発言に対し、私は思わず少し顔をしかめながら否定してしまう。

「いえ……。できれば、クリスさんにだけは、あまり飲んで欲しくないですね……」

 クリスさんは目をぱちくりとさせ、少しおどろいた顔をしながら説明を求めてきた。

「それはなぜですか?」

「これ以上、クリスさんが美人になってしまいますと、私は、その……」

 私は女性に対して何を口走ろうとしているのか、ここでやっと気づき、思わずほほめてうつむいてしまい、言いよどむ。

 そんな私に対し、クリスさんは下からのぞき込むようにしてじっと目を見つめて来て、続きを口にするように無言のプレッシャーをかけ続けてくる。

「わ、私は、その、ク、クリスさんに、結婚を申し込む前に、お、お、押し倒してしまいかねないと、危惧きぐしているのです……」

 顔が滅茶苦茶めちゃくちゃに熱い。間違まちがいなく、真っ赤になってしまっているだろう。

 そんな私の様子ようすをじっと見つめていたクリスさんは、何度も大きくうなずきをり返し、力強く宣言した。

「それはとてもいいことを聞きました。これからは、私、毎日トウニュウを飲み続けますね」

「え?」

 私のお願いとは正反対になっている結論けつろんおどろいて顔を上げると、彼女は鼻をふくらませ、右手でにぎこぶしを作りながら、ふんすーっと、鼻息も荒く説明してくれる。

既成きせい事実じじつさえ作ってしまえば私の勝ちです。そして、この里でずっと幸せにらしましょう」

 クリスさんのあまりにもアグレッシブなその発言に、このままでは本当に既成きせい事実じじつを作ってしまいかねないなと、心の警戒けいかいレベルを一気に数段階上げることにした。

 私はできるだけ紳士しんしであろうと、心に固くちかった日だった。