先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~
第103話 塩田と綿花畑
明けて翌日。
クリスさんに朝食に誘われたので彼女の小屋へと出向き、一緒に朝食を楽しんだ。その後、今日はどこを見て回ろうかと考えていると、クリスさんの方から質問してきた。
「ヒデオ様、今日はいかようにしてお過ごしになりますか?」
「そうですね……」
私は顎に手を当てて考えを巡らせ、少し間を開けてから返答をする。
「そういえば、この島は王国とほとんど交流がないように見えます」
クリスさんは、軽く頷いて同意している。
「そうですね」
「では、塩はどうやって手に入れているのですか?」
私のそんな質問に対し、クリスさんは目をぱちくりとさせて、当たり前のこととして教えてくれた。
「海がありますので、自分たちで作っております。森の里では違うのですか?」
私は一つ頷いてから答える。
「ええ。塩や布、鉄製品などは、里に来る行商人と取引して手に入れていますね」
そして、軽くあたりを見回してみると、この里には鉄製品がないことに気づいた。
「そういえば、この里では鉄製品を見ませんね」
「私たちでは作れませんから。この里では、黒曜石から作ったナイフや包丁が使われております」
クリスさんは私の里の様子に興味を持ったようで、少し目を輝かせながら質問をしてきた。
「森の同胞たちは、どうやって鉄製品を買っているのでしょうか?」
「魔力を込めた魔石と交換していますね」
それからいくつかクリスさんと雑談を交わした結果、この島はそれなりの広さがあるのだが、魔物はあまりいない様子だった。
そのため、ごく小さい魔石しか取れず、私の里のように魔石を輸出するのは難しいという結論になった。
「布はどうやって手に入れているのですか?」
「綿花畑で育てた綿花から、木綿の布を作っております」
「では、今日は、塩を作っている様子と綿花畑を見せていただけませんか?」
そして、そのままの流れでクリスさんがまた直々に案内してくれることになり、今は海辺で製塩業の様子を二人で仲良く見学している。
「あれは、もしかして塩田ですか?」
「ええ、そうです。ああやって、天日と風で水分をある程度飛ばしてから、煮詰めて塩を作っています」
クリスさんは振り返ってこちらに顔を向け、素敵な笑顔で私を褒めてくれる。
「ヒデオ様は森のご出身なのに、塩田の言葉とかよくご存じですね」
私もそれに微笑みを返し、知っていた理由について説明を加える。
「王国南部の製塩業を見学したことがあったのですよ」
そして、二人で製塩業の様子を一通り見て回り、私は感想を述べる。
「しかし、興味深いですね。この島と王国はほとんど交流がないはずなのに、製塩業の手法は同じものです」
もしかすると、過去の大陸統一国家の時代や古代魔法文明時代にはもっと交流があり、その過程で製塩業も伝わったのかもしれないなと考えていた。
「では、次は綿花畑へご案内しますね」
そういって案内された綿花畑を見てみると、私が想像していたよりもかなり本格的な畑が広がっていた。
「凄いですね。これは、私の里だと作れないものです」
そんな私の感想に対し、クリスさんは少しキョトンとした様子になって聞き返してきた。
「そうなのですか?」
「ええ……。私の里だと、畑を作る技術は、最初から発明されていないか失われてしまっているのですよ」
そのようにしてクリスさんと一緒に島の生活を見て回っているうちに数日が経過し、だんだんと帰還する予定の日が近づいて来ていた。