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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第98話 大衆浴場の建設

 かなり大規模になってしまった合同お祝い会も無事に終了し、しばらくが経過してみんなが落ち着きを取り戻したころ

 私は領民のみんなに何か形のあるものをお返ししたいと考え、あるものの建設許可をエストに願い出ていた。

大衆たいしゅう浴場よくじょうの建設許可ですか?」

 私は大きくうなずきを返し、その意義いぎについて説明する。

「ええ。それがあれば、領民のみんなが少し清潔せいけつになりますので、病気の発生率も少しはおさえられるのではないかと考えています」

 そんな私をエストは少しジト目になりながら見つめ、問いただし始めた。

「でも、おじい様が考えるものであるのなら、他の都市にあるような一般的な大衆たいしゅう浴場よくじょうは作らないのでしょう?」

 私はうなずきを返し、その構造についての説明を始める。

「ええ。新しい風呂ふろがまを作ろうかと思っています」

「それは、どのようなものになるのですか?」

「これを使えば、現在のお風呂用の給湯きゅうとうの魔道具のように、内部にお湯を確保しておく必要がなくなるので、バスタブがかなり広くとれるようになるはずです」

 そんな私の説明を聞いたエストは、少しあきれ顔になりながら感想を語る。

「おじい様は本当に、次から次へと新しい魔道具を作られるのですね」

 そんなエストの指摘してきに対し、私は頭を軽くりながら否定の意見を述べる。

「この風呂ふろがま自体は魔道具ではないのですよ。純粋じゅんすいな物理法則を利用したものになります」

 そして、私はこの風呂ふろがまの簡単な原理を説明する。

 まず、U字型のパイプを用意し、これを横方向にしてコの字型にバスタブに取り付ける。

 そして、給水きゅうすいの魔道具を利用してバスタブに水を張り、パイプの下側から火の魔道具で温める。

 温められた水は少し軽くなるため、パイプの上部に移動し、上側の出口からバスタブにもどっていく。

 そうすると、今度は下側のパイプの水の圧力が下がるため、バスタブからパイプの下側の入り口に冷たい水が入って来る。

 このようにして水が循環じゅんかんを続けるようになり、バスタブ全体の水が温められる。

 これは、対流たいりゅうと呼ばれる現象げんしょうを利用したものだ。

 腕組うでぐみをしながら私のこの説明を聞いていたエストは、私にある質問を投げかけた。

「タイリュウですか……。前から思っていたのですが、おじい様のその知識ちしきは、いったいどこで身に着けたものなのですか?」

 私は少しひたいに冷や汗をかきながら必死に頭を回転させ、なんとか言いわけをひねり出した。

「それは、本からの知識ちしきですね。私は貴族しか買えないような本も含めて、いろいろと買いあさっていますので」

 私のとっさの誤魔化ごまかしがうまくいったのか、エストも納得なっとくしてくれたようだ。

「おじい様は読書が趣味しゅみですものね。そのような難しい内容の専門書まで読破どくはされているとは知りませんでした」

 そして、エストは一つうなずいた後に建設の許可を出してくれる。

「分かりました。領主一族からの領民への感謝かんしゃの気持ちということにして、建設を許可します。ただ、一つだけ条件があります」

 そう言うと、エストはクスリと笑ってからその条件に付いて語る。

「試作品でかまいませんので、我が家のお風呂にもそれを設置するようにしてください」

 私もクスリと笑ってから、それに応じる。

「もちろんです。私も広いお風呂に入りたいですからね」

 それから十か月ほどが経過した、冬のある日。

 町の北側を流れている川のほとりに、急ピッチで建設を続けていた大衆たいしゅう浴場よくじょうが完成した。

 この大衆たいしゅう浴場よくじょうは、税金をおさめてくれる領民たちへの領主一族からの感謝かんしゃしるしであると説明されていて、運営にも補助ほじょきんがつけられるようになった。

 その結果、他の都市にある大衆たいしゅう浴場よくじょうと比較すると、かなり安い料金での入浴にゅうよくが可能になっていた。

 この新しい大衆たいしゅう浴場よくじょうに入った領民たちは、建物の大きさの割に広くとられたバスタブを見て、とてもよろこんでくれていた。

 また、この新型の風呂ふろがまは、魔道具を一切使用しなくても、人力で水を運んでまきの火で温めても使えるような構造になっていたため、平民向けとして人気をはくすようになっていった。

 そのため、新たに風呂ふろ専門の工房も立ち上がるようになっていき、平民用のバスタブや風呂ふろがまもガインの町のものが最高級のブランドとして認知にんちされるようになった。

 その結果、町の税収も増えていくのである。

 これらのことから、領民たちの間で入浴にゅうよくがブームとなり、最初に作られた大衆たいしゅう浴場よくじょうは、観光かんこう名所めいしょとしても知られるようになっていった。