Novels

先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第97話 合同お祝い会

 あれからまたたく間に二週間の時が過ぎ去り、いよいよ合同お祝い会の日になった。

 会場となっている領主館の外ではすでに祝い酒がふるまわれており、その喧騒けんそうがこのやかたの中にまで聞こえている。

 最初は身内でのお祝いということで、私の工房の弟子でしたちや高等学校の先生たちからのお祝いの言葉をいただく。

 ちなみに、私が断固だんことして辞退じたいしていたため、お祝いの品は誰も持ってきていない。私のお願いをこころよく聞き入れていただいたお礼のためにも、一人ずつ丁寧ていねい祝辞しゅくじをきちんと受け取る。

 もう一人の主役であるネリアの方にもお祝いを述べる列ができているが、挨拶あいさつの終わった官僚かんりょうたちの中には、ヤケ酒としか思えないような自暴じぼう自棄じきな飲み方をしているものがかなりの人数で見えている。

 その様子ようすが少し不思議ふしぎに見えた私は、ネリアの父親であるエストにその理由をたずねてみる。

「エスト、なぜ彼らはあんなに無茶むちゃな飲み方をしているのですか?」

 私の視線しせんの先を追いかけたエストは、少し笑い顔になりながらその真相しんそうを語ってくれる。

「ああ、あれですか……。失恋しつれんのためですので、今日だけは、大目おおめに見てあげてください」

 私はその返答が少し意外に聞こえてしまい、首をかしげながら聞き返してしまう。

「え? ネリアはモテるとは聞いていましたが、今まで浮いた話が一つもありませんでしたよね? それなのに、あんな人数が同時に失恋しつれんしてしまっているのですか?」

 私がそのように疑問を述べると、エストは我慢がまんできなくなったのか、口に手を当ててクスクスと笑い出しながらさらに真相しんそうを語ってくれる。

「私もほんの数日前に部下から愚痴ぐちとして聞かされただけなのですが、ネリアはどんな身分のものに対してもとても奥ゆかしい態度たいどをとるでしょう?」

 その指摘してきに対し、私はうなずきを返しながら同意する。

「そうですね」

「ですので、ネリアは、あれこそが理想の姫様だとか、あれこそが理想のよめだとか言われていたようで、ひそかにねらっていたものが多かったのだとか」

 私はなんだか余計よけいなぞが深まったように感じてしまい、首をかしげながら質問を続ける。

「しかし、それであるならば、今までに誰か一人ぐらいとはお付き合いをしていたはずだと思うのですが……」

「なんでも、理想的な女性すぎたようで、直接交際を申し込むのを遠慮えんりょしてしまって、お互いに牽制けんせいしあっていたそうですよ?」

 ここまで丁寧ていねいに説明してもらって、私はようやく納得なっとくできた。

「なるほど……。高嶺たかねの花すぎて交際を申し込むのを躊躇ちゅうちょしてしまっている間に、一番の堅物かたぶつだと思われてノーマークだったレオンさんに、さっさとかっさらわれてしまっていた、というわけですか」

 私が無意識むいしきに使ってしまっていた異世界独自の表現を聞いたエストは、そのことについて質問してきた。

「おじい様、高嶺たかねの花とはどういう意味になるのですか?」

 私は咄嗟とっさに頭の中で言いわけを考え、さも当然のことであるような表情を取りつくろいながら説明する。

「あまりにも素敵すてきすぎて、あこがれてしまうだけで自分とは程遠ほどとおいと思ってしまう女性のことを、私の故郷ではそのように表現するのですよ」

「それはとても素敵すてきな表現ですね」

 お祝い会は順調に進んでいき、内輪うちわでのお祝いが終了したため、領民たちにも感謝の気持ちを伝えようと外に出て顔を見せることにした。

 とびらを開けた私の姿を見かけた領民たちは、我先にと私に向かってお祝いの言葉を述べてくれる。

 しかし、それがだんだんと加熱していってしまい、やがて私が領民に取り囲まれそうになってしまった時点で、警備けいびを担当していた傭兵さんの一人が大声で怒鳴どなった。

「みんな落ち着け! これでは初代様が怪我けがをされてしまう! 本当に初代様をお祝いしたいのであれば、全員、二ベク以内には近づくな!!」

 その声を聞いた領民たちはさっと私の周囲から少し距離を取り始め、だんだんと進行方向の道沿みちぞいの人込ひとごみが割れていく。

 私の体をこんなにたくさんの人たちが気遣きづかってくれているその様子ようすが、とてもありがたいものに感じられて、感謝の気持ちがみ上げてくる。

 その時、少し不思議ふしぎに思ってしまったことが、ふと私の口からこぼれ落ちた。

「私は、これほどまでに領民たちにしたわれるほどのことを、本当にやって来たのでしょうか……」

 そのつぶやきを聞いた周囲の警備けいび担当たんとうの傭兵さんたちが、うなずきながら笑顔えがおで口々に説明してくれる。

「もちろんですぜ」

「ああ。この町が発展はってんしているのも、好景気こうけいきがずっと続いているのも、初代様のおかげだしな」

「そのおかげで、税率が低いままでえ置かれているってのも、加えてくださいや」

 それらを私のとなりで聞いていたエストが、さらに説明を加えて肯定こうていしてくれる。

元日がんじつにシゲルが言っていたでしょう? おじい様は、この領地とたみの宝なのです」

 そんな話を聞いた私は、できる限りの感謝の気持ちをあらわしたいと思い、人込ひとごみが割れてできた道沿みちぞいに進み、領民の一人一人にお礼を述べながら町をり歩き続けた。