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先祖返りの町作り ~無限の寿命と新文明~

第9話 初めての魔法

 里の隅々すみずみにまで聞こえたという、祭司長の怒号どごうが響き渡った事件からしばらくが経過していた。

 あれから祭司長はずっと不機嫌ふきげん様子ようすで、眉間みけんしわを寄せた顔を私に向けながら、勝手に魔力を使おうとするかどうかの監視をしていたのだと思う。

 将来はお嫁さんに欲しいと思うぐらいには祭司長が大好きだったので、私はこれ以上嫌われてしまわないように、言われた通りにおとなしく日々を過ごしていた。

 そんな私の努力のかいもあって、祭司長の眉間みけんしわも徐々に薄くなっていき、やっと次の魔法の手ほどきをしてくれるようになっていた。

 そうして教えてもらえたのは、魔法文字についてだった。

「良いか。魔法文字はそれ自体が力を持っておる。じゃから、一文字ずつ区切って読むのはかまわんが、まだ連続して読もうとするでないぞ?」

 私は素直すなおうなずき、地面を使って書き取りの練習をする間も、きちんと一文字ずつ区切って発音はつおんしていた。

 不思議ふしぎ発音はつおんをする文字体系であったが、里のものであれば誰でも発音はつおんできるらしく、私も特に苦労することなく覚えていった。

 そして、魔法文字を全種類習い終わり、だいたい頭に入ったぐらいの時を見計みはからったあたりで、祭司長がいよいよ魔法について教えてくれる事になった。

「魔法は、魔法式を読み上げる事から始めるのじゃ。そらんじられるようになって、その流れを深く理解し、頭の中で魔法式を組み上げられるようになれば、魔法名をとなえただけで発動するようになるがの」

 祭司長はそのように説明しながら、魔法式と呼ばれる魔法の設計図を地面にガリガリと書き進めていた。

 その魔法式をながめていると、私にとってはとても馴染なじみの深いものが思い浮かんだ。

(なんだかプログラミング言語に似ていますね)

 そのような感想をいだきながら魔法式を声に出して読み上げ、発動トリガーとなる魔法名をとなえてみる。

『強風』

 私の右手から、強い風が巻き起こった。

 しばらく目を見開き、初めて自分で行使する魔法に達成感と感動が徐々に強まって行き、私は思わず顔をこれでもかとほころばせる。

(これ、滅茶苦茶めちゃくちゃヤバイです。ふるえがくるほどうれしいです)

 しばらくの間、顔どころか体全体でよろこびを表現し続け、そのままニコニコ笑顔で魔法を連続して使用してみる。

 プログラミング言語と同じように見えそうな部分等を検証しながら、三回魔法式を読み上げて起動してみたら暗記できたので、試しにだまってやってみたら、すんなりできた。

「おぬしはすごいのお。わしでもそこまで簡単にはできなんだ」

 大好きな祭司長にめられた事でさらにうれしくなって、調子に乗って魔法を連発していたら、ぐっと肩を引っ張られて止められた。

「今日初めて覚えたにしては、なかなかの発動速度じゃ。魔力制御の訓練をちゃんとやっておったようじゃの」

「はい! 毎日欠かさずにやっていました!!」

 魔石に魔力を込める事を制限されたため、安全だと言われていた魔力制御の訓練を、余った時間でずっとやっていた。

 満面まんめんの笑顔で返事をした私を見て、祭司長は一つうなずいてから、この魔法の特性について教えてくれる。

「この魔法は簡単に発動できるのじゃが、獲物えものたおせぬ。じゃがな、足止めには使えるぞ。近づかれると危ない獲物えものもおるゆえ、精進しょうじんして、できる限り早く発動できるようにせよ」

 素直すなおうなずいて了承りょうしょうの意思を伝えると、すぐに魔法の練習を再開した。

 祭司長は、嬉々ききとして魔法を連発する私をしばらく見た後、ため息をきながらそっとつぶやいた。

「まあ、もう練習せずとも良いと思うがな……」

 聞こえなかった振りをして、魔法をバンバン打ち続けた。

 そうしていると、祭司長は私の肩をまたつかみ、ぐっと自分の方へと手繰たぐり寄せ、私のほおを両手ではさみ込み、じっと目を合わせながら話しかけてきた。

「練習するのはかまわんが、もし、また気絶するような事があれば……。分かっておるな?」

 過去のトラウマを刺激され、真顔まがおになって、冷や汗を流しながらコクコクとうなずいた。