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先祖返りの町作り

第219話 凱旋

会議を終えた私は、
戦争の後始末に追われていた。

ここにいるのは武官達ばかりなので、
事務処理に長けたものが少なく、
自然と私に負担がのしかかっていた。

書類仕事に埋没していると、
頼もしき援軍がユキムラから送られてきた。

再開したばかりの列車に乗って、
ガイン自由都市の能吏達がやってきたのである。

「初代様。領主様より伝言です」

そう言って、
官僚の一人がユキムラの言葉を伝えてくれる。

「大おじい様。どうせ文官が足りなくて、
 一人で仕事を抱え込んでいるのでしょう?

 その責任感の強さは美徳なのですが、
 たまには私を頼ってくださいね。

 特に有能なものを選りすぐって送りましたので、
 彼らに仕事を引き継いで、
 できるだけ早く、ガイン自由都市へと、
 解放軍と共に凱旋してください。

 領民達は皆、待ち焦がれていますよ?」

私の行動パターンが、
ユキムラには筒抜けである事実に、
私は苦笑しきりであった。

それでも、その心遣いが大変にありがたく、
早速彼らに仕事をどんどんと引き継いでいった。

それから数日後には引継ぎも終わり、
帰還準備を進めていた解放軍の再編成も終わった。

治安維持に必要な最低限の人数を残し、
皆で臨時列車に乗って、
次々とガイン自由都市へと帰還する。

全軍で整列するために、駅から降りると、
いったん都市の外の広場へと向かい、
到着した部隊から順に隊列を整える。

解放軍の面々は、一世一代の晴れ舞台だと、
胸を張って隊列を整えている。

もうこの時点で、
市民達の熱狂的な歓迎を受けていた。

集結場所の周囲には、
私達解放軍の雄姿を一目見ようと、
多数の市民達が押し寄せている。

そして全軍の隊列が整い次第、
進軍ラッパを吹き鳴らし、
ガイン自由都市へと凱旋を始める。

周囲にはもう人、人、人である。

皆一様に笑顔で、紙吹雪を舞い散らせている。

中には生花をかき集めた人もいるようで、
本物の花びらもひらひらと舞い踊っている。

そして、進軍の列の中心部に集まっている、
軍首脳陣が見えると、
歓声は最高潮に達していた。

「皆さん大人気ですね」

私がそう感想を述べると、周囲の全員が、
こいつは何を言っているんだという顔をした。

「この歓声の大部分は、
 あなたに向けられたものですよ?」

まあ、分かってはいても照れくさいので、
私は苦笑しながらごまかしておいた。

あまり不愛想にするのもどうかと思ったため、
試しに手を振ってみると、
あちこちから黄色い歓声が上がった。

「ヒデオ将軍は大人気ですな。
 よりどりみどりですが、
 婚約者さんが焼きませんかな?」

ゲイル将軍が、笑顔で怖い発言をする。

私はクリスさんが、
この様子を眺めている場面を想像し、
ブルッと震える。

笑顔なのに、
背後に黒いオーラをまとっている、
クリスさんの姿がありありと浮かぶ。

「やめてください。
 くれぐれも、
 クリスさんには内緒でお願いします」

私が戦々恐々としてそう言うと、

「もう既に、恐妻家ですか?」

と言われ、周囲から笑いが巻き起こった。

(自分では、愛妻家になるつもりなんですが)

やがて凱旋のパレードは終わりを迎え、
そのまま自然と祭りが始まった。

後にこの日は正式な祝日に制定され、
解放記念日と呼ばれるようになるのであった。