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先祖返りの町作り

第211話 アーネ平原の戦い

ガイン自由都市で出陣してから、
1か月が経過した頃。

私が直接指揮する主力軍は、
真っすぐに王都を目指していた。

しかし、後方の補給線を確保するために、
途中の村々を解放しながら、
ゆっくりと進軍していた。

そんなある日。

本日の野営準備をしていた時、
その知らせが斥候からもたらされた。

「進軍経路上に、王国軍の騎兵隊を発見しました。
 接敵予想時刻は二日後。
 おそらくはアーネ平原で会敵すると思われます」

私は相手の装備や編制等の、
さらなる詳細情報の収集を指示し、
早速本陣で軍議を開いた。

「やはりこちらに来ましたか。
 ヒデオ将軍の読み通りですな」

こうなる事はあらかじめ説明していたため、
特に混乱もなく、落ち着いて軍議が進められた。

実は、この主力軍が一番数が少なく、
また、王都に直進するコースを進んでいるのは、
最初に狙ってもらうためである。

王都に向かっているため、
相手からすれば無視するのは悪手になる上に、
数が一番少ないため、
最初に撃破しやすい相手に見えた事だろう。

しかし、この主力軍の中核は、
精鋭中の精鋭であるガイン自由都市軍だ。

「ただ、遮蔽物のない、
 平野部での戦いになりますから、
 騎兵の強みが最大限に発揮されてしまいますね」

副将に任命したゲイル将軍の言である。

彼はガイン自由都市軍のトップで、
初代のカント将軍から数えて、
9代目の将軍である。

現在52歳の油の乗り切った年齢であり、
その点では、我々は幸運であったと言えるだろう。

「まあ、一番与し易く見えるようにしましたから、
 あえて相手に有利な地形で、
 正面切って戦いましょう。

 それを粉砕してこそ、
 長年にわたって鍛え続けてきた、
 ガイン自由都市軍の精鋭達の初陣にふさわしい。

 そうは思いませんか?」

そして二日後。

予定通りに、
アーネ平原でお互いが布陣した状態で向き合った。

互いに単純な横陣であるが、こちらは最前列に、
主力のガイン自由都市軍を配置している。

そして、どちらからともなく、
じりじりと距離を詰め始める。

騎兵は速度が最大の武器ではあるが、
馬の足には限りがある。

そのため、あちらもぎりぎりまで足を温存して、
一気に騎兵突撃をかけて蹴散らすつもりだろう。

そうはさせないが。

「そろそろ良いころ合いでしょう。
 射撃体勢に入れ」

「はっ。射撃体勢に入れ!」

副官のシルバが命令を復唱し、
それに合わせて合図の太鼓が鳴り響く。

「では、ゲイル将軍。全軍の指揮は任せますね」

「はい。ヒデオ将軍の雄姿を、
 我が同僚達にお見せしてきてください。
 そうすれば、兵達の士気も上がりますので」

私は事前の打ち合わせ通り、最前線へと向かう。

ちなみに、銃を構える時、
地面に寝そべっている姿を、
思い浮かべた人も多いだろう。

弾をジャンプしてよける事は不可能であるため、
姿勢を低くして当たりにくくしているのである。

しかし、今回は相手側に銃がない。
そのため、
セオリーを無視した射撃体勢を取っている。

つまり、寝そべった状態、膝立ちの状態、
棒立ちの状態の縦に3列を作り、
射撃密度を激増させているのである。

私も配置について、その時を待つ。

相手を十分に引き付け、
そろそろ相手が突撃するかという、
絶妙な位置取りで、
射撃開始の合図が鳴り響く。

シュシュシュと、
まるでサイレンサーを付けた銃のような、
発砲音を鳴り響かせながら、一斉射撃が始まる。

あまりに連続して発砲音が響くため、
シュウゥゥゥンのような、
一連の音に聞こえるほどだ。

それに頼もしさを感じながら、
私も自分の仕事を開始する。

『多重石弾』

私の頭上に120個もの石の弾が形成される。

流石にこの数になると、
それぞれを誘導させるのは不可能だが、
ただ真っすぐに飛ばすだけなら、
これぐらいはいける。

兵士達の猛烈な弾丸の嵐に、私の弾丸も加わる。

『多重石弾』『多重石弾』『多重石弾』
『多重石弾』『多重石弾』

同時に複数の魔法式が構築できる、
純血のアルクの特性を生かし、
5重に起動した魔法式の、
トリガー名を唱え続ける。

120発もの石弾を、
たった一人でまとめてつるべ打ちにし続ける。

それを見た兵士達から歓声が上がる。

「見ろよ!
 あれこそが伝説の『耳長の悪魔』の魔法だ!

 勝てる! 勝てるぞ!!

 ヒデオ将軍が味方にいる限り、
 我らの勝利は揺るぎないぞ!!」

目論見通り、士気が上がる兵士諸君。

私の弾丸も含めて、
恐ろしいほどの密度で発射され続ける弾丸の嵐。

相手はなすすべもなく、次々と倒れてゆく。

ご立派な金属鎧を着込んでいるため、
一発二発では貫通しないが、
それでも雨あられと猛烈に飛んでくる、
弾丸の圧力だけで、鎧を吹き飛ばしてゆく。

また、騎兵突撃の速度を高めるためか、
馬までは重装備にしていなかった。

そのため、騎馬が一瞬でひき肉に代わってゆく。

仮に鎧が無事だったとしても、
あれだけ重量があるものを着込んで、
馬から落下すれば、
それだけでも人は簡単に死んでしまう。

結局、こちらは一兵たりとも失う事なく、
接近する事すら許さず、
わずか3~4分程度の時間で、
相手が散り散りになって逃げまどい始めた。

こうして、我ら主力軍の初陣は、
圧勝と言う単語でも言い表せないほどの、
完全勝利で、
王国軍を鎧袖一触にして終演した。